リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

文字の大きさ
上 下
41 / 424
第2章〜奴隷編〜

閑話:ディオンの過去

しおりを挟む



ディオンside



私の世界は生まれたその瞬間から、もう終わりを告げていた。
ーー・・そう、残酷にも。


「っっ、おお、ついに生まれたか!」


産屋から聞こえてきた元気な子供の産声に、妖精族の長は普段は寡黙な相好を崩して愛おしい妻の元へと飛んで行く。
ーーー今日と何も変わらぬ、幸せな明日を信じて。


「セリス、良くやった!無事に子供が生まれたのだな。心から礼を言うぞ、セリス!」
「・・・ムググ様。」
「・・?セリス、一体、どうした?」


産屋に駆け込んだ長、ムググは愛おしい妻の悲しげで泣き出しそうな眼差しの意味が最初、全く分からなかった。
・・その理由は、直ぐに知る事となるのだが。


「っっ、なっ、羽が・・。」


ーーなぜ、と、あまりの事に固まり、言葉を無くす。
生まれて来たばかりの自分の赤子の背に、あるはずの羽が片羽だったから。
妖精族は長命だが、出生率が低く子供が生まれにくい。
だから、妖精族は自分や同族の子供をとても大切にするし、愛おしむ。
ーーー・・片羽と言う忌み児と言う例外を除いて。


「っっ、な、なぜ、なんだ。ようやく授かった私達の子供が、よりにもよって片羽なんて。」


声を震わせ、手で顔を覆う。
父親は現実を直視する事が出来なかった。


「っっ、違う、こんな片羽のまがいものなど、決して私とセリス、お前との子などでは無い!!」


・・・そう、蔑視の対象ではない両羽が揃った子供だったなら父は自分の子だと思ってくれたのだろう。
ーーーーそれからの私の人生は、一体、何だったんだろうか。


「・・・・ムググ様、どうかディオンに会って下さいませんか?あの子も父親に会えず、とても寂しがっております。」
「馬鹿な事を言うな、セリス。欠陥品の者などに会う暇など私にはない。」
「っっ、ですが!あの子は、貴方様の血を受け継いだ子供ではないですか!?」
「セリス!!」
「っっ、!」


前だったら向けられはずのない、夫であるムググの鋭い声にセリスが身体を震わせる。


「これから先、2度と欠陥品の事について私の前で話すな。良いな?奴を生かしてやっているだけでも、私の温情だと思いなさい。」


父親から見捨てられ、疎まれる事だけが私の生まれた意味だろうか?


「・・ディオン、ごめんね。」


私の記憶の中の母親の姿は、いつも泣き顔ばかりだった。
泣いて、絶望して。


「私は、ディオン、貴方の事を愛しているわ。」


偽りばかり言い続けた母親。
愛していると口では言いながら、私に決して触れようとしないのはなぜ?


「っっ、貴方は、欠陥品なんかじゃない。」


それは一体、誰に向けて言った言葉だったのか、今でも分からない。
日に日に弱っていった母親が亡くなるのに数年と掛からなかった。


「・・ムググ様、どうして、私へ会いに来てくれないの?」


最後まて、自分たちに背を向け続けた最愛の人を待ちながら。
私に本音を隠し、現実から目を背けた母親の哀れな最後だった。


「・・・ようやく私に跡取りが生まれた。」


数十年ぶりに会った父親は、私に見下すような冷たい眼差しを向ける。
今この時も、私に会う事が不本意だと言わんばかりの顔で。


「・・・跡取り?」
「セリスが亡くなり、新たに後妻を迎えた。その妻が立派な跡取りを生んだのだ。お前みたいな欠陥品ではなくてな。」


ーーーーよって、お前は用済みだ。
そう父親から吐き捨てられたのは、私の存在を否定するもの。
その後、父親によって里から放逐され、外の世界など知らない私は、数年後に奴隷商人に捕まり売られる事となる。


「いっそ、その手で殺してくれ。」


自分の事が不必要だと言うなら、その手で終わらせてくれたら良かったのだ。
なぜ、生かした?


ーーー『私は、ディオン、貴方の事を愛しているわ。』


嘘を吐き。
偽りの愛情で事実から目を逸らした母親。


『ーーーっっ、このままだと、あの人の愛情を私ではない他の誰かに奪われてしまう!』


失う恐怖から逃げる為に。
愛していた。
だからこそ、母は父親から見捨てられるかも知れない真実など見たくなかったのだろう。


『あぁ、ディオンは、あの人と私の愛の証になるはずだったのにっっ、』


今はもう、叶わぬ夢。
私が生まれた事が罪だと言うのなら、いっそ、その手で殺して欲しい。
きつく、瞳を閉じる。
こんな残酷な現実など、見たくなくて。


「・・片羽だが、妖精族だから高く売れるな。せいぜい、稼がせてくれよ?」


心に蓋をする。
きつく心に蓋をすれば、奴隷商人に何を言われても、感じない人形となれた。
ほら、もう私の心は痛まない。


「ーーーー私は、ディア。ねぇ、私の声は聞こえてる?」


心を蓋をし、全てを閉して暗い闇の中にいた私。
そんな時、声が聞こえた。


『ーーー・・・待ってて、貴方の希望を取り戻すから。』


そんな貴方の声が。
ディア様。
貴方に出会えた事が、私の何よりの希望。
奇跡。
そう、信じても良いでしょうか?



名前:ディオン
LV 4
性別:男
年齢:68
種族:妖精族
HP:460/460
MP:930/930
スキル
生活魔法、風魔法


しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...