リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

文字の大きさ
上 下
314 / 424
第10章〜海竜編〜

嵐の訪れ

しおりを挟む



人は面白い話が好きだ。
それが他人の醜聞なら尚の事、食いつく。


「どうやら、あの日からサフィアは自分の部屋に引きこもっている様ですよ。」


とは、リリスから
あれからも、リリスはサフィアの情報を集めれくれている。


「あら、そうなの?」
「サフィアの理不尽に他者をなじる姿が周囲から非難されている様です。今年の舞手として相応しくないとの声も上がっていますね。」
「あらあら、まぁ、」


良い具合に、サフィアは周囲の人達から非難されている様だ。
上機嫌に笑う。


「それと、アディライトの事も街中で話題になっております。」
「ふふ、『厄災の魔女』が街に帰って来たって?」
「はい、その様な内容です。またアディライトによって厄災が街中に広がるのではないかと不安視しているようですね。」


頷くリリス。


「アディライトの存在は、昔からこの街に住んでいる人達にとっては恐怖の対象でしょうから、仕方ないわ。」


溜め息を吐く。
今はアディライトの他者へ厄災を振り撒くスキルは発動しない。
私が幸運を呼ぶスキルへと変えてしまったから。


「ディア様、それとーーー」


リリスからもたらされた情報に私は目を見開いた。


「それ、本当?」
「はい、間違いありません。」
「ふーん?」


私の口元が釣り上がる。


「ふふ、使えるね、私の計画に、それ。」


新しく計画を練り直す。
喜べ、サフィア。
貴方への新しい制裁計画が加わりそうよ?


「ふふ、後は種が芽吹く時をゆっくりと待ちましょうか。」


その日から、街に大粒の雨が降り始める。
嵐の前触れ。
街の中に広がる、『厄災の魔女』に対する憤りが膨らみ始めていった。


「・・ねぇ、聞いた?」
「もしかして、あの不吉な話の事?」


噂が拡散される。
街中の人の口を介して。


「・・なあ、これって、まさか。」
「あぁ、呪いかもな。」


不安。
晴れ間の無い恐怖。
ルドボレーク国に住む人達の中に、噂は広がっていく。


「祟りよ。」
「海竜祭は、一体、どうなるの?」


不安。
言い知れぬ、恐怖心。


「ーーーっっ、この街に『厄災の魔女』がいるから、海竜様がお怒りなのよ!」


上がる疑惑。
疑いは、次第に怒りへ。
『厄災の魔女』への憎しみへと変わっていく。


「ーーーっっ、あの魔女を、街から追い出せ!」
「この街を守るんだ!」


恐怖心が、街中の人達の心を曇らせてしまう。


「『厄災の魔女』を許すな!」
「この街を『厄災の魔女』の手から守れ!」


街を守る。
その一心で、誰もが武器を手に取った。


「これは、街を守る為にやらねばならない事なんだ。」
「全部、あの子が悪いのよ。」


自分は悪くない。
悪いのは、全て誰かのせいなのだから。
蓋をする。
自分達が見たくないものに。


「街に災いを呼ぶ『厄災の魔女』に大いなる鉄槌を!」
「正義の為に!」
「我らの平和を取り戻す為に立ち上がろう!」
「「「おぁぁぁぁ!!!」」」


正義とは何か。
誰が正義で、悪だった?
誰も分からずに、また1人と、その手に武器を持つ。
『厄災の魔女』を討つべく動き出した。


「ーーー・・ディア様。」
「ふふ、アディライト、不安?」


宿の窓を雨が打ち付ける。
この街の海も荒れ狂い、漁にも出られないぐらいだと聞く。


「いいえ、私の事などご心配なく。それよりも、私はディア様の身に何か良くない事が起こらないか不安なのです。」


縋るような眼差しを向けられる。


「ーー・・ディア様、この街に留まるのは、やはり危険では?」


降り止まぬ雨。
窓越しに眺め、アディライトに微笑む。


「あら、アディライトは、私の楽しみを奪うの?」
「ですがっっ!」
「アディライト、私のお願い、よ。」


知っている。
アディライト達が、私のお願いを断れない事を。


「ディア様・・。」


困った様に、アディライトが眉を下げる。
途方に暮れた様な表情だった。


「この街にいては危険なのですよ?お分かりですか?」
「うん、分ってる。」


この街の人達の本当の本性が、ね。


「そうさせたのは、私。この街の醜い本性を炙り出させたの。」


この街の人達は簡単に動き出してくれた。
私が望む通りの方へと。


「これは、私の私怨だよ。だから、アディライトは悪くない。」


気に病む事はないの。
だって、これは私の復讐なのだから。


「私にも見せて?『厄災の魔女』が伝承の乙女となり、この街を救う救世主となる所を。」


アディライトに近付き、抱き付く。


「私の可愛いアディライト。いつまでも、貴方の事を『厄災の魔女』なんて私が呼ばせないわ。」


その為に、もう事は動き出した。


「それに、私のことなら平気よ、アディライト。ここには貴方とフィリアとフィリオの3人がいるのよ?」


、私を害せる者はいない。


「っっ、ですが、」
「ふふ、不安なの?」


目の前のアディライトの瞳が揺らぐ。


「・・私は、『厄災の魔女』ですから。この街の人にとって、忌まわしい存在でしょう。」
「だから?」


どうして、私以外の人間を気にするのか。
アディライトの頬に手を滑らせる。


「私の事だけを考えなさい、アディライト。粗末な存在は、私が直ぐに片付けてあげるから。」


うっそりと笑う。
階下から聞こえる怒号と足音を聞いて。


「安心して、アディライト。最後の勝利に笑うのは、この私だから。」


計画は進む。
1人の少女の想い描いたシナリオ通りに。


「ーーー貴方が、海竜を暴れさせた張本人ですか?」
「我が主人の為に、大人しくしてもらいます。」


時は来た。
私が蒔いた種が芽吹く時が。


「ディア様の為に、貴方の計画は潰させてもらいます。」
「悪く思わないでくださいね?」


私の計画が進む中、コクヨウとディオンの2人がひっそりと暗躍していた。
この街の住人の誰も、真実を知らない。
ーーー今日は遠い昔、あの伝承の乙女が海竜の為に舞った日。


「サフィア、海竜様の為に舞ってくれ!」
「お願いだ、海竜の乙女!」
「この嵐を、舞で吹き飛ばしてちょうだい!」


伝承は繰り返される。
住人は願う。
どうか、海竜よ、この舞で心を鎮めてくれと。


「ーーー・・これで、海竜様のお心が鎮まると良いのだが。」


人々の不安の中、サフィアは舞った。

しおりを挟む
感想 147

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...