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第12章〜獣人編〜
武術大会の開幕
しおりを挟む武術大会の当日。
この国に潜伏する魔族が動く事も、冒険者ギルドが調査に向かった様子もなく、この日を迎えた。
「はぁ、この街の冒険者ギルド、ダメね。」
上が腐っているとしか言えない。
本来なら、どんなに情報の出所が怪しくとも調査に動くものだろう。
魔族関係の情報なのだから。
「魔族が動き出した事は、国としても周知のはず。なら、ギルド長にも伝わっているはずよね?」
もしも魔族が本格的に国を攻撃し出したら、動くのは兵と冒険者達。
その冒険者達を動かせる偉い人間が、魔族が暗躍し出した事を知らされないはずがない。
「ディア様、今のギルド長は、ご自分の利益と金儲けしか考えていないような屑のボンクラみたいですよ?」
ディオンの口元に浮かぶ冷笑。
酷い言い様である。
事実であるから、咎められないが。
「そんな男を重要な冒険者ギルドの長へ据えている責任は、全て王にあります。王の能力も底が知れていますね。」
ディオンの辛辣な言葉には一理ある。
自分の治める国の事を知らないのは、王の責任でもあるのだから。
「ディア様は魔族と不正な奴隷にについての報告と警告を、ちゃんと冒険者ギルドへされました。その事実を知りながら何もしなかったギルド長も、きちんと責任を取るべきです。」
「まぁね?」
今日の魔族の動き次第では、これから先のギルド長の進退が決まる事だろう。
自業自得の結末になりそうだが。
「しかも、目を付けた女の冒険者をわざと依頼未達成になるように采配しては、借金奴隷にして自分で買い取り、可愛がるケダモノですから。今の地位から追い落とした方が、喜ばれるでしょうね。」
「最低なんだけど。」
まさに最低最悪な男である。
この際に生ゴミとして駆逐した方が良いと思う。
「んー、こんな事なら王城へ直接手紙を届けるべきだったかしら?」
強固に守られている王城よりも、冒険者ギルドの方が警備がないから侵入が楽なのよね。
王の方に報告していたら、きちんと動いてくれたかしら?
「無い物ねだりね。」
たらればを考えていても仕方ない。
気持ちを切り替えて、私達は武術大会の会場へと向かう。
武術大会を観戦するのに良い席は皆んなが取ってくれているはずだしね。
「おぉ、ここが会場。」
武術大会の会場は、広いドーム状の中央に設置されたリングの上で行われるようだ。
会場内は早くも多くの人で溢れている。
先ほど別れたルルーシェルも、あのリング状でたくさんの挑戦者と戦うのだろう。
「ディア様、ガルムンド王国の王が来られたようです。」
コクヨウの視線の先。
栗色の髪をした男性が特等席に座る所だった。
「あの方がガルムンド王国の王?」
「そのようです。今のガルムンド王国の王は、獅子の獣人だと聞いていますね。」
獣人の子供は、親のどちらかの種族になる。
稀に先祖返りで、両親のどちらの種族でもない種族が生まれる事もあると聞くが、本当かは分からない。
「あら、王様は獅子の獣人族なの?少し獅子の姿を見てみたいわ。」
その手触りは、一体どんなかしら?
うっとり想像する。
「そう言うと思いました。ディア様は、毛並みを撫でるのが好きですから。」
苦笑いのコクヨウ。
「ふふ、可愛い私だけのペットが欲しいわ。」
出来れば毛並みがある子が良い。
アスラやユエはペットと言うより、私の守護者かしら?
「1匹ぐらい、私だけに恭順のペットがいても良いわよね?屋敷で犬か猫を飼おうかな?」
「ディア様が、それをお望みなら。」
「コクヨウ、本当?なら、本格的にペットを飼う事を考えようかしら?」
皆んなも、お世話を手伝ってくれると思うし。
獰猛な子が良いわね。
その方が躾甲斐があるもの。
「ーーー今日は、我が国の武術大会へ多くの挑戦者が集まってくれた事に感謝する。」
つらつら考えていれば、始まり王の挨拶。
間も無く大会が開始のようだ。
沸き立つ歓声。
ガルムンド王国の武術大会が今、幕を開けた。
「勝者、ロドリゲス!」
試合は進む。
観戦するお客のボルテージは最高潮。
「あのロドリゲス、今回の大会の優勝候補らしいですよ、ディア様。」
「そうなの?」
アディライトの言葉に目を丸くする。
戦いを見ていても、そこまで強いと感じなかったけど?
「ディア様にとっては、ロドリゲスぐらいの強さは弱いと感じるかと。彼の実力ですと、冒険者ランクAにも届くと思いますよ?」
「んんー、私の周りにAランク以上の子達が大勢いるから、いまいちピンとこないわ。」
「そうですね、ロドリゲスと同じ強さを持つ者なら、ディア様のお側に数えきれぬほどおりますし。」
私の家族は、平均でAランク相当なのである。
1つの国以上の戦力があるのよね。
「勝者、ルルーシェル!」
順調に勝ち進める私のルルーシェル。
そして、その時は来た。
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