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第11章〜勇者編〜
演説
しおりを挟むSランク冒険者として勇者一行に近付く為に私達は動き出した。
私達のパーティーメンバーは聖皇国パルドフェルドへと入ると、冒険者としてクエストをいくつも達成していく。
信頼が集まる私達。
「ーーディア様、5日後に勇者のお披露目があるようです。」
そんな頃、リリスから待望の報告が。
「そう、ついに、ね。」
心が軋む。
ようやく次のステージへ進める嬉しさと、会う事への恐怖。
震える自分の手を、握り締めた。
「・・・ディア様が無理と思われるなら、僕達だけで勇者を地獄へ叩き落としますよ?」
コクヨウの目尻が下がる。
「いいえ、大丈夫。私のこの手であの男へ復讐するわ。」
許しはしない。
この相馬凪への増悪は、私だけのもの。
「でも、側にいてね?」
「もちろんです、ディア様。」
コクヨウ、そして他の皆んなも笑顔で頷く。
5日後。
その日が、私と相馬凪の運命を決める時。
ひっそりと、その日を待った。
「100年も前、当時の勇者は魔王を打ち滅ぼしたが、魔族の脅威が再び我らの平穏を脅かそうとしている。」
5日後。
リリスの報告通り、聖皇国パルドフェルドの皇王パルファンの演説が始まった。
魔法で拡散された皇王の声が民衆へ届く。
「魔王を失い、身を潜めていた魔族の活動が報告されたのだ!」
皇王の言葉に、民衆がどよめく。
恐怖、絶望。
民衆の中に駆け抜けていく。
「だが、何も案ずる事はない。我らは魔族の脅威から守って下さる勇者様を、女神ニュクス様からのお告げにより召喚した事を宣言する!」
広がるさざ波。
困惑と、魔族への恐怖心、そして、勇者への期待が民衆の中に広がる。
「・・何とも滑稽な演説ね。」
歪む口元。
フードを深くかぶった私達は、路地裏の影から皇王の演説を見ていた。
「何も知らないって、幸せな事だわ。」
勇者など偽り。
その日が来れば、無くなる称号だと言うのに。
「それでも、魔族の脅威がある今、勇者の存在は民衆の希望にはなるのね。」
誰でも、平和を享受したいと望む。
今ある幸せを誰からも害されず、平穏に暮らしたいと。
「果たして、あの男が大人しく勇者として活躍するかしら?」
この世界は現実なのだ。
異世界で争いもなく生きていたあの男が、死ぬかも知れない戦いに堪えられるとは私は思えない。
大きな希望は、裏切られた時、増悪へと変わる。
その増悪は、誰に向かう?
「偽の勇者だと民衆が知った時、あの男と王家に批難が向くわ。」
あの男を勇者に選んだのだ、王家。
そして、勇者本人へと向く。
「皆に紹介しよう、異世界より召喚されし勇者様だ!名は、ナギ・ソウマと言う。」
笑顔の皇王の隣に、あの男が並ぶ。
あの頃と変わらぬ姿で。
「俺が皇王様から紹介されました、ナギ・ソウマです。皆さんの平和を守る為に、全力で魔族の討伐に挑みますからご安心を。」
笑みを浮かべる相馬凪に、私は胸元を握る。
あちらの世界で半年以上前に見た頃の彼と変わらぬ、その笑顔。
吐き気が込み上げる。
「あの方が、勇者様なのか・・?」
「見ろ、髪も瞳も黒いぞ!」
「本当に、勇者なのか?」
こそこそと民衆から囁かれる、あの男への不信感。
誰もが、その色彩に眉を顰める。
「・・黒は、不吉な色と皆に敬遠されますからね。」
コクヨウに浮かぶ、自嘲の笑み。
「これから先、勇者様も色々と大変でしょう。」
その目は冷ややかだ。
「その強さを磨く為に、勇者様は我が国の迷宮に入る事となる。」
皇王の言葉は続く。
「よって、我が国の迷宮への入場へ規制が設けられる事となるが、皆も勇者様と世界の平和の為だと理解して欲しい。」
冒険者達と思われる人達の顔が怒りに染まる。
迷宮は命の危険があるが、冒険者達にとって大金のお金が入る場所。
はいそうですかと納得は出来ないだろう。
「不満は、爆発する。」
全ては世界の平和の為だと言い聞かせてみても、実際に自分達に被害のない者達以外は皇国の勇者への優遇へ不満を覚えていく。
そして思うのだ、勇者は必要なのか、と。
「楽しみね、相馬凪?」
貴方がどんな理由で世界を守ると決めたのかは知らないけど、その決意は無駄になる。
私はあの男へ背を向けた。
「ーーー聞いたか?勇者様の迷宮攻略が全く進んでないって話。」
「あぁ、まだまだ俺達は迷宮へは入れそうにないみたいだな。」
あの演説から1ヶ月、冒険者ギルドの中に入れば、聞こえる勇者の話。
誰もが顔が険しい。
「実際、勇者の姿を見たが、髪も瞳も真っ黒だったじゃないか!」
「本当に勇者か疑わしいもんだぜ。」
「違いねぇ!」
ゲラゲラと笑い出す冒険者達。
「皆さん、勇者様を選んだのはニュクス様ですよ?あまりの言いようは、不敬と思われてしまいますから注意してくださいね?」
仲良くなった冒険者の皆んなへ、私は微笑んだ。
芽吹け。
不満と、あの男への疑いの芽よ。
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