リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第10章〜海竜編〜

狂気的な衝動

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何か失うのは、あっという間だ。
悲しむ暇も。
争う事さえままならない。
あの男の手によって、私は全てを失っていった。


『どうして、貴方は嘘ばかり言うの?』
『凪君から全て聞いたわよ?』


私の居場所。
そして、信頼さえ、あの男は奪っていった。
どうすれば良かったの?


『っっ、私は嘘なんか言ってない!本当だよ、信じて!』


最後まで、否定し続ければ信じてくれた?
あの男の言葉だけ信じて、私の叫びさえ聞いて貰えなかったのに?
だから、諦めた。
私の言葉など、誰も必要としないと理解したから。


『本当、凪君みたいな優しい子がいてくれて良かったわ。』
『この子の事、よろしくね?』


あの男を信じ切る全ての人間が、私の敵になった。
どうして、あの男を信じるの?


『当然ですよ、任せてください!彼女は僕の大事なクラスメイトですから。』


私を蝕む、あの男の毒。
逃げ出したくて仕方なかった。
どこか遠く。
あの男の手の届かない場所へ。


『ーーーこれは、逃げであり、貴方への復讐よ。』


あの日。
高校の屋上に立った私は、あの男から逃げ出し、復讐する道を選んだ。
理解しろ。
私は、お前のせいで死んだんだと。
思い知らせてやる。


『お前、生きてる価値なんてないよ。』


そうだと言うなら、その価値のない私の命で、あの男に復讐するのだ。
最高の復習でしょう?
あの男にされた事、クラスメイト達からのいじめ。
全てを暴露してやったのだから。


『勇者の名前は、相馬凪と言う男です。』


なのに、あの男は現れた。
この世界の勇者として、私の側に。
どうして、あの男が勇者として選ばれ、この世界へ来たのか。


「幸せになるなというの?」


お父さんを捨て、この世界でディアとして生きると決めたのに。
それさえも許さないと言うのか。


「ーーーん、」


沈んでいた私の意識が浮上する。
ゆっくりと目を開く。


「ディア様、目覚められましたか?」


安堵するアディライトが、目を開けた私の顔を覗き込む。


「アディライト・・?」
「はい、ディア様。おはよございます。」


にこりとアディライトが微笑む。


「目覚められたのですね、ディア様!?」
「申し訳ありません、ディア様。首は痛くありませんか?」
「「ディア様!」」


私が眠っているベットの周りに集ういつもの皆んな。
一様に心配そうな表情を浮かべている。


「安心しました、ディア様。」


最後に、目尻に涙を滲ませたリリスが私の手を握る。


「ここは・・?」


見渡してもルドボレーク国の宿の部屋ではない。
見覚えのあるここはーーー


「ここはルーベルン国にあるお屋敷の、ディア様の自室です。」


告げるアディライトがカーテンを開けた。
入り込む朝日。
どうやら、あのまま一日中、私は眠っていたらしい。


「もうご朝食のご用意もできていますが、ディア様は食欲はありますか?」
「・・・。」


無言で身を起こす。
ひどく身体が重く、起きる事さえ億劫だった。


「・・食事はいらない。」


顔を伏せる。
はらりと、長い銀入りの髪が俯く私の顔を隠す。


「では、何かお飲みになりますか?」
「・・・それもいい、今は何も欲しくないから。」


シーツを握り締めた。


「っっ、お願い、今は私を1人にして!」


きつく、目を閉じる。
溢れ出しそうな感情を押し込めるように。
今にも蓋を開け、厳重に鍵を掛けて仕舞っていた感情が飛び出してしまいそうだ。


「・・今のディア様を、僕達が1人にするとお思いですか?」


そっと、私の肩にコクヨウの手が触れる。
震える私の身体。


「ーーーっっ、・・・て、」
「・・・ディア様?」
「止めてよ!!」


困惑するコクヨウの私の肩に触れる手を振り払い、その身体をベットへ組み敷くと、その首を締めていく。


「っっ、こんな事したくないから、早くこの部屋から出て行って欲しかったのに!!」


組み敷いたコクヨウの頬に私の涙が落ちる。
怖い。


『一緒に全てを壊してしまえば、何にも怯える事はないもの。』


あの夢の中の声の様に、このまま本当に誰かを壊してしまいそうな自分が怖くて、とても恐ろしいのに止まらない衝動。
これで、私の心の中から恐怖心は無くなるの?


「っっ、ディ、ア、様、」


ぎりぎりとコクヨウの首元に食い込む私の指。
止められない。


「ーーーっっ、良い、ですよ、ディア、様・・。」
「・・は?」
「・・貴方、に、なら、殺、されても、良い、です、」


苦しみながら、コクヨウが笑った。


「・・・な、んで、」


笑えるの?
私の指から力が抜けた。
首を圧迫されていたコクヨウが、苦しげに咳き込む。


「っっ、バカ、だよ。」


咳き込むコクヨウの胸元に額をつける。
コクヨウの上下する胸元が彼が生きている事の証で、涙が止まらなかった。



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