リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第10章〜海竜編〜

狂乱

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私は零れ落ちる自分の血を静かに見ていた。
死ぬ事への恐怖はない。
あるのは、これで楽になれると言う安堵だけ。
それ以外、何もなかった。


「ーーーいつ、私は死ねるの?」


まだ死ねない。
その間に、相馬凪が全てを私から奪っていったら?


「いやっ、」


その間に早く死ななきゃ。
相馬凪が来る前に。
自分の首筋に短剣を押し当てた。


「っっ、一体、貴方は何をしているのですか!?」


短剣を握る手を掴まれる。
のろのろと視線を上げて私の腕を掴むの存在を見れば、顔を青ざめさせたコクヨウがいた。


「直ぐに回復させます!」


血が流れる私の手首に、険しい表情のディオンが治癒の魔法を施す。
悲鳴と混乱。
この私の行為はルーベルン国や他の屋敷にいる者達へも伝わり、激震に大きく揺れる事となった。
慌てふためく皆んなの姿を、私は無言で見つめる。


「・・なんで?」


ドアにはエトワールの張った結界があったはず。
誰も部屋の中へ入れるはずがない。


「エトワールが、ディア様の危険に結界を解いてくれました。っっ、ディア様、何でこんな事を!」


私の手から短剣を取り上げ、コクヨウが言う。


「っっ、良かった。」


短剣を取り上げたコクヨウが、私の身体を抱き締める。
その身体は震えていた。


「もう、こんな事は止めて下さい、ディア様。」
「・・・。」
「僕達は、貴方の事を絶対に失いたくないんです!」


悲痛にコクヨウが叫ぶ。


「一体なぜ、このような事をしたのですか!?」


私の顔を覗き込む、青ざめたままのコクヨウをぼんやりとした目で見上げる。
何で?


「・・怖い、から。」
「怖い?」
「相馬凪が、私から全てを奪っていくの。皆んなの事も、私の幸せも、全部っっ、」


この私の手には、何も残らない。
あるのは絶望だけ。


「・・相馬凪とは、ディア様の何なのですか?」
「っっ、」


びくりと、身体を震わせる。
いや、だ。
怖い。


「ディア様?」
「あっ、っっ、ぃや、」


身を擦って、コクヨウの腕から逃げ出す。
ここにいてはダメだ。
逃げなくちゃ。


「返してっっ、!」


奪われた短剣に手を伸ばす。
恐怖心に半狂乱となって短剣に手を伸ばす私を、コクヨウが抱き止め、邪魔をする。


「やっ、」


どんなに暴れても、懇願して泣き叫んでも、コクヨウの腕は解けない。
何で、皆んなは私の邪魔をするの?
涙が止まらない。


「・・・ダメなのに。」


早く死ななきゃ。
あの頃の様に、全てを失っちゃう。
相馬凪が、今ある幸せを私から全て奪っていくの。


「っっ、死ななきゃ。」
「ディア様!?」
「短剣がダメなら、魔法で。」


ぶつぶつ呟く。
周囲など見えておらず、死ぬ事しか私の頭の中にはなかった。
強い強迫観念。


「っっ、ディア、僕の事を見て!」


顎を掴まれ、視線が絡む。


「今、貴方の前にいるのは、誰ですか?」
「・・コ、コクヨウ。」
「はい、そうです、ディア様。」


強い力で掴まれた私の顎からコクヨウがそっと手を離す。


「少し落ち着いて、大丈夫ですから。」
「っっ、ん、」
「ここには、貴方を脅かすものは誰1人いません。」
「ひっ、」


声を上げ、その場に泣き伏す。
もう、嫌だ。
これ以上、何も考えたくない。


「大丈夫です。」
「僕達が側にいます、ディア様。」
「何も怖い事はありません。」


囁かれる、言葉達。
恐怖に震える身体を強く抱き締められて、優しい口付けを至る所に受ける。
夢心地の中、それだけを感じていた。


「ーーー・・ディア様、目が覚めましたか?」


どれぐらい眠っていたのか。
薄っすらと、私は閉じていた目を開ける。


「ディ、オン・・?」
「そうです、ディア様。」


目を開けた私に、ディオンが微笑む。
どうやら私は、ディオンに抱き締められながらベットの中で横になっているようだ。
周囲には、私とディオン以外は誰もいない。


「ーーーっっ、皆んな、は?」


心音が跳ねる。
ねぇ、アディライト達は、どこ?
なんでいないの?


「・・・私、皆んなに捨てられちゃったの?」
「っっ、ディア様、落ち着いてください!」
「やっ、皆んな、どこ!?」


お願い、何でもするから私から大事な皆んなの事をを取り上げないで!
パニックに取り乱す。


「ーーー・・すみません、ディア様。」
「っっ、」


そのディオンの謝罪の声の後、私の首筋に痛みが走る。
暗転する視界。
私の意識は、真っ暗な闇の中へと落ちていった。


『ーーーねぇ、怖いよ。』


彼女が泣く。
死んだ目をした弥生が。


『また、私は1人になるの?』


恐怖に怯える。


『あの男に奪われる前に全部を壊そう?』


狂気に染まる、彼女。


『皆んなを誰かに、あの男に奪われるぐらいなら、いっそこの手で全てを壊してしまうの。』


笑う。
血の涙を流して。


『私達の普通が皆んなとは違うなら、とことん狂気に染まろう?』


私へと手を伸ばしてくる。


『一緒に全てを壊してしまえば、何にも怯える事はないもの。』


怖くない。
全てを壊してしまえば、恐怖に怯える必要もなくなる。
本当に・・?


『幸せになって、“ーーー”』


ねぇ、リデル。
あの時、貴方は最後になんと言ってくれたの?


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