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第10章〜海竜編〜
新たな敵
しおりを挟む私が精霊王達の加護を受ける存在と知り、大いに驚いた海竜は、どんな時でも助けになると請け負ってくれた。
感謝感激。
なんとも、ありがたい事だ。
海竜との友誼を結び、街の様子を見守る事、一週間。
「ふふ、アディライト、サフィアのあだ名を聞いた?笑っちゃうわよね、『疫病神』何て。」
余計な事をしたと、街中の人から冷たい目を向けられているらしい。
自業自得なので、そのあだ名を受け入れておくれ。
「あと、一応アディライトの事を守っていたトムには何もしようとは考えていなかったけど、自ら地獄へ向かうとは思わなかったわ。」
今回の降り止まない雨に慌てたトムの両親がサフィアとの結婚を強行。
娘を溺愛するサフィアの両親も快諾。
無事に2人は夫婦に。
自分の妻となったサフィアの愚行を止められなかったトムも、街中の人達から批難され、婚家でも実家でも針の筵なんだとか。
「この街の疫病神に、その妻の手綱も握れなかった無能な夫。ふふ、お似合いの夫婦よね?」
これも運命と諦めて、夫婦生活を謳歌してくれ。
サフィアの両親は、今回の娘の愚行に仕事の契約をほとんど切られ、瀕死の状態なのだとか。
どうなる事やら。
「まぁ、2人の夫婦生活がどうなろうとも私には関係ないけど。」
壊れるならご勝手に。
別れるも、そのまま夫婦で頑張るも、2人の好きにすればいい。
「はぁ、スッキリした後のお茶は美味しいな。」
気分のいい時に飲むお茶は最高だね。
アディライトの淹れてくれた茶を飲みながら、私の気分が機嫌だったのは、この時まで。
「ーーー王都の王宮におります陛下より、伝承の乙女へご伝言でございます。」
王都の王宮からの使者により、一気に不機嫌となる。
一体、何なの?
「・・・私に、陛下がなんの御用でしょう?」
対応するアディライトも不審そう。
警戒心MAXである。
「はい、陛下はこの度の伝承の乙女の活躍を大いにお喜びになり、ぜひ王宮へ招きたいと申しております。どうか、我々とご一緒に王都の王宮へお越しください。」
「誠にありがたいお話ですが、お断りいたしますわ。」
微笑を浮かべるアディライト。
使者は目を見開く。
「っっ、一体、それは、なぜでしょう!?」
「私のような身分の者が王宮へなどいけません。そのような恥知らずな事は出来ませんもの。」
やんわりと断る。
ーーー王宮、他国のならアディライトも行った事あるけどね。
「そなた、王命を断りになるか!?」
「「「・・・。」」」
脅しと取れるような使者の言葉に、アディライトの、私達の顔から表情が消えた。
王命・・?
だから、何でも言う事を聞け、と?
「うふふ、なんだか面白そうね、アディライト。」
「・・ディア様。」
「良いじゃない?アディライト、陛下からのご招待を心良く受けましょう?」
口角を上げ、使者へ視線を向ける。
「王命ならお断りはできませんもの。アディライトの主人である私も、もちろん、ご一緒してもよろしいのですよね?」
「はい、もちろんです。」
使者が頷く。
「陛下もぜひとも、伝承の乙女の主人にも一緒に来て欲しいとの事でしたので、問題ありません。」
「うふふ、ありがとうございます、王宮へ行けるなんて楽しみですわ。」
ねぇ、国王陛下?
にんまりと、私はほくそ笑む。
そのまま使者に連れられ、私達は止まっていた馬車に乗ると王宮へと向かう。
「あの少女が伝承の乙女なのか?」
「海竜様のお怒りを鎮めた救国の乙女だそうだぞ?」
王宮へ着いてからは、大変だった。
私達へ向けられる周囲の目。
「陛下は此度の功績を讃え、あの者に褒賞を渡すそうだ。」
「庶民の娘には、過ぎた褒美だな。」
「違いない!」
「いやいや、海竜様の乙女なら私達も敬わないといけないかもしれないなぁ。」
ひそひそと囁き合い、笑う周囲の人達。
不愉快極まりない。
「良く来てくれた、伝承の乙女よ。私が、ルドボレーク国の王、アシュレイだ。」
こんな王宮の主人である王はどれほどイケ好かないのかと思えば、私達を出迎えたのは気の弱そうな40代の男性。
どうや、この人が王らしい。
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。」
私は恭しく頭を下げる。
「うむ、今日はそなた達を急に王宮まで呼び立てて悪かったな。」
以外。
もっと傲慢で、横暴な人かと思っていた。
謝るとは予想外である。
「陛下、その様な下賤の者に謝る事はありませんよ。」
その一方で。
こちらを見下す女性が1人。
こちらも40代と思しき、厚化粧の女性。
「私達は原初の海竜様のお怒りを鎮めた乙女の末裔。その様な下賤の者に阿る事は必要ないのです。」
「・・姉上。」
王に姉上と呼ばれた女性は、手に持っている扇子で自分の口元を隠す。
「そこの娘、名は確か、アディライトと言いましたね?」
「はい、左様です。」
「下賤の身でありながら、此度の事は良い働きをしました。海竜様のお心も、さぞ鎮まった事でしょう。」
「・・ありがとう、ございます。」
頭を下げたアディライトが、そのまま目を伏せる。
「その働きに免じて、分不相応なれど、そなたには褒美を与えよう。」
意地悪く、女性の目が細まった。
「喜びなさい、そなたは王の側室となり、王家の為に貢献なさいな。」
王の姉の言葉に、ピシリと、私の顔が固まる。
今、何て言った?
私の可愛いアディライトが王の側室・・?
「お前の様な下賤な血筋の女には光栄な事でしょう?側室とは言え、王家に嫁げるのだから。」
奥義で隠された口元が笑うのが分かった。
沸々と湧き上がる激情。
「恐れながら、発言の許可をいただけますでしょうか?」
怒りに目をすわらせれば、アディライトが王の姉に発言の許可を得る為に恭しく首を垂れる。
「ふん、良いだろう。申すが良い。」
「ありがとうございます。せっかくのお話ですが、お断りさせてくださいませ。」
「・・何?」
王の姉が不機嫌な声を出す。
「断ると申すか?下賤な身のお前が?」
「はい、この身は主に捧げておりますゆえ。どうぞ、ご容赦ください。」
「ならぬ!」
王の姉が苛立ちに扇を閉じた。
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