リセット〜絶対寵愛者〜

まやまや

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第10章〜海竜編〜

閑話:伝承の乙女

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これは、とても昔のお話。
ある海の底に、1匹の海竜がおりました。
海に面した国では漁が盛んで、漁師達の信仰の対象は海竜です。
時には人間の為に海を鎮め漁の助けに。
そして、侵略者の危険に晒されそうな時は、海を荒ぶらせてそこに住む人間達を他の国から守ります。
海竜と人間達は、仲良く共存していました。
しかし、ある些細な行き違いから、海竜の逆鱗に触れてしまい、人間達との間に大きな亀裂が入る事となるのです。
海竜は怒り狂いました。
その日から海は荒れ、大雨が続く毎日で、人々は海竜の怒りの大きさを知るのです。


「っっ、もう、この国はダメだ!!」


人間達は絶望しました。
このままでは、この国は海に飲み込まれ沈んでしまう、と。
誰もが思いました。


「どうか、海竜様、荒ぶる気をお鎮めください。」


そんな時です。
1人の少女が荒ぶる海に向かい、静かに舞い始めたのは。
少女は舞います。


「人間をお許しください。」


自分が住む国の民が許されるように。
昼も夜も休まず、少女は海竜の怒りを鎮める為に、一心に舞い続けました。


「ーーーっっ、」


少女が舞い始めて四日目の夜の事です。
ついに、少女は力尽き、その場に倒れてしまいました。
雨が吹き荒れる中、寝る間も惜しみ、食事も碌に取ることのなった少女の身体は、とうとう限界を迎えてしまったのです。
もう、少女は立ち上がる事もできません。


「・・ごめんなさい」


大雨が打ち付ける中、少女は泣きながら海竜に謝ります。
その時でした。


「乙女よ、良い舞だった。」


倒れ伏す少女の前に、一匹の海竜が現れたのは。
少女は驚きます。


「海竜様、私の舞を見てくださっていたのですか?」
「うむ、他者を慈しみ、自分の身を危険に晒してまで舞い続けた、其方の姿に免じて、今回の事は許そう。」


言って、海竜が咆哮を上げました。
すると、どうでしょう。
みるみるうちに荒れた海は穏やかさを取り戻し、雨も上がり、晴れ間が雲の間から現れました。
久しぶりの晴れ間です。


「・・っっ、あぁ、海竜様、心から感謝いたします。」


泣きながら少女は深く海竜へ感謝しました。
涙ながらに感謝するボロボロな姿の少女を見下ろし、海竜は言います。


「乙女よ、また其方の舞を私に見せておくれ。」


ーーーと。
淡い光がボロボロだった少女の身体を包み込みます。
海竜の癒しの力でした。
ミルミルうちに少女の身体が癒されていきます。


「しかし、其方が毎回こうも舞を披露する度に疲弊するのは忍びない。そうだ、年に一回、一夜だけ私の為に舞を披露しておくれ。」
「はい、毎年必ず、仰せの通りに海竜様へ舞を捧げます。慈悲深く、こうして私の身体を癒してくだった優しき海竜様へ。」


少女は優しき海竜に感謝し、1つの約束をしました。
毎年、一夜だけ海竜に舞を見せる事を。


「奇跡だ!」
「海竜様にお怒りが鎮まった!」


喜びに沸く人間達。
その国に住む全員が少女を讃え、海竜に感謝を捧げました。


「今日も海竜様に感謝を捧げます。」


少女は海竜との約束通り、毎年、一夜だけ舞い続けます。
その命、尽きる日まで。
遠い昔の話。
これは、後に海竜祭の始まりとなる海竜と乙女の伝承である。




◇◇◇◇



深い、海の底。
1人の女が残忍に笑う。


「ーーーふふ、どうかしら?強い呪いに侵される気分は?」


目下すのは、一匹の竜。


「・・・一体、お前の目的は何だ?」
「あら、まだ話せるの?」


女が驚きを表す。


「私の呪いを受けたって言うのに、生命力が強いのね。さすが、海竜様と言った所かしら?」


呆れの眼差しを、女は海竜へ向けた。


「まぁ良いわ。特別に聞きたい事を最後のはなむけに教えてあげる。」


女の口元が吊り上がる。


「私の目的はね?貴方に人間の街を破壊してほしいのよ。」
「・・何?」
「ふふ、いずれ貴方の意識はその毒に飲まれ、見境なく街を襲うようになるわ。貴方の意志なんか関係なく、ね。」


細まる女の瞳。


「これは、私達の復讐なの。」
「復讐・・?」
「そう、私達から大切な『あの方』を奪った、人間、種族、そして、何よりこの世界への復讐よ!」


愛おしい『あの方』。
その方を自分達から奪ったのは誰だ?


「貴方に分かる?理不尽に大切な方を突然、奪われるこの痛みが!?」
「・・・。」
「だから、復讐するの。この世に住む全ての者達、世界に!」


許さない。


「失って、そして痛みに耐える苦しみを味わうがいいのよ!」


女は増悪に染まった心で誓う。
この世界に復讐を。


「敬愛する、魔王様の為に全てを壊しなさいな、海竜。」
「ーーー・・。」


笑う女の声を最後に、海竜の意識は沈んだ。



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