298 / 411
第10章〜海竜編〜
閑話:伝承の乙女
しおりを挟む???side
これは、とても昔のお話。
ある海の底に、1匹の海竜がおりました。
海に面した国では漁が盛んで、漁師達の信仰の対象は海竜です。
時には人間の為に海を鎮め漁の助けに。
そして、侵略者の危険に晒されそうな時は、海を荒ぶらせてそこに住む人間達を他の国から守ります。
海竜と人間達は、仲良く共存していました。
しかし、ある些細な行き違いから、海竜の逆鱗に触れてしまい、人間達との間に大きな亀裂が入る事となるのです。
海竜は怒り狂いました。
その日から海は荒れ、大雨が続く毎日で、人々は海竜の怒りの大きさを知るのです。
「っっ、もう、この国はダメだ!!」
人間達は絶望しました。
このままでは、この国は海に飲み込まれ沈んでしまう、と。
誰もが思いました。
「どうか、海竜様、荒ぶる気をお鎮めください。」
そんな時です。
1人の少女が荒ぶる海に向かい、静かに舞い始めたのは。
少女は舞います。
「人間をお許しください。」
自分が住む国の民が許されるように。
昼も夜も休まず、少女は海竜の怒りを鎮める為に、一心に舞い続けました。
「ーーーっっ、」
少女が舞い始めて四日目の夜の事です。
ついに、少女は力尽き、その場に倒れてしまいました。
雨が吹き荒れる中、寝る間も惜しみ、食事も碌に取ることのなった少女の身体は、とうとう限界を迎えてしまったのです。
もう、少女は立ち上がる事もできません。
「・・ごめんなさい」
大雨が打ち付ける中、少女は泣きながら海竜に謝ります。
その時でした。
「乙女よ、良い舞だった。」
倒れ伏す少女の前に、一匹の海竜が現れたのは。
少女は驚きます。
「海竜様、私の舞を見てくださっていたのですか?」
「うむ、他者を慈しみ、自分の身を危険に晒してまで舞い続けた、其方の姿に免じて、今回の事は許そう。」
言って、海竜が咆哮を上げました。
すると、どうでしょう。
みるみるうちに荒れた海は穏やかさを取り戻し、雨も上がり、晴れ間が雲の間から現れました。
久しぶりの晴れ間です。
「・・っっ、あぁ、海竜様、心から感謝いたします。」
泣きながら少女は深く海竜へ感謝しました。
涙ながらに感謝するボロボロな姿の少女を見下ろし、海竜は言います。
「乙女よ、また其方の舞を私に見せておくれ。」
ーーーと。
淡い光がボロボロだった少女の身体を包み込みます。
海竜の癒しの力でした。
ミルミルうちに少女の身体が癒されていきます。
「しかし、其方が毎回こうも舞を披露する度に疲弊するのは忍びない。そうだ、年に一回、一夜だけ私の為に舞を披露しておくれ。」
「はい、毎年必ず、仰せの通りに海竜様へ舞を捧げます。慈悲深く、こうして私の身体を癒してくだった優しき海竜様へ。」
少女は優しき海竜に感謝し、1つの約束をしました。
毎年、一夜だけ海竜に舞を見せる事を。
「奇跡だ!」
「海竜様にお怒りが鎮まった!」
喜びに沸く人間達。
その国に住む全員が少女を讃え、海竜に感謝を捧げました。
「今日も海竜様に感謝を捧げます。」
少女は海竜との約束通り、毎年、一夜だけ舞い続けます。
その命、尽きる日まで。
遠い昔の話。
これは、後に海竜祭の始まりとなる海竜と乙女の伝承である。
◇◇◇◇
深い、海の底。
1人の女が残忍に笑う。
「ーーーふふ、どうかしら?強い呪いに侵される気分は?」
目下すのは、一匹の竜。
「・・・一体、お前の目的は何だ?」
「あら、まだ話せるの?」
女が驚きを表す。
「私の呪いを受けたって言うのに、生命力が強いのね。さすが、海竜様と言った所かしら?」
呆れの眼差しを、女は海竜へ向けた。
「まぁ良いわ。特別に聞きたい事を最後の餞に教えてあげる。」
女の口元が吊り上がる。
「私の目的はね?貴方に人間の街を破壊してほしいのよ。」
「・・何?」
「ふふ、いずれ貴方の意識はその毒に飲まれ、見境なく街を襲うようになるわ。貴方の意志なんか関係なく、ね。」
細まる女の瞳。
「これは、私達の復讐なの。」
「復讐・・?」
「そう、私達から大切な『あの方』を奪った、人間、種族、そして、何よりこの世界への復讐よ!」
愛おしい『あの方』。
その方を自分達から奪ったのは誰だ?
「貴方に分かる?理不尽に大切な方を突然、奪われるこの痛みが!?」
「・・・。」
「だから、復讐するの。この世に住む全ての者達、世界に!」
許さない。
「失って、そして痛みに耐える苦しみを味わうがいいのよ!」
女は増悪に染まった心で誓う。
この世界に復讐を。
「敬愛する、魔王様の為に全てを壊しなさいな、海竜。」
「ーーー・・。」
笑う女の声を最後に、海竜の意識は沈んだ。
3
お気に入りに追加
2,257
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
男女比崩壊世界で逆ハーレムを
クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。
国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。
女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。
地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。
線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。
しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・
更新再開。頑張って更新します。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
逆ハーレムエンドは凡人には無理なので、主人公の座は喜んで、お渡しします
猿喰 森繁
ファンタジー
青柳千智は、神様が趣味で作った乙女ゲームの主人公として、無理やり転生させられてしまう。
元の生活に戻るには、逆ハーレムエンドを迎えなくてはいけないと言われる。
そして、何度もループを繰り返すうちに、ついに千智の心は完全に折れてしまい、廃人一歩手前までいってしまった。
そこで、神様は今までループのたびにリセットしていたレベルの経験値を渡し、最強状態にするが、もうすでに心が折れている千智は、やる気がなかった。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる