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第7章〜精霊編〜
閑話:ユリーファの世界
しおりを挟むユリーファside
私の世界は、窓のない部屋の中。
ーーただ、それだけ。
「良いですか?ユリーファ、父上の、ムググ様のご命令は絶対ですよ?」
母上が、幼い私の髪を梳く。
「貴方がいくらムググ様の娘と言えど、ご迷惑になるような事は絶対にしてはなりません。ユリーファ、分かりましたね?」
幼い私に言い聞かせるかのように。
私の母上は、先のお妃、セリス様に面差しが似た為に、父であるムググ様にほんの束の間の間だけのお相手としてお側に侍り、子が出来た事で愛妾となったエルフの女性だった。
「私の可愛い、ユリーファ。」
愛されていたと思う。
「ムググ様の尊き血を引いた、あの方の娘。まさか、私が妖精族の娘を生むなんて。」
ーー・・私の中の、妖精の血だけを。
エルフと妖精族の間に、私と言う妖精族の娘が生まれた。
半端者の妖精族。
純血の妖精族ではない私は、正妻様やご子息様、もちろん父であるムググ様にも会う事もなく、数年を母親と一緒に小さな家を与えられて暮らしていた。
あの日まで。
「・・っっ、セリス?」
そんな私の平穏が崩れたのは一瞬。
ほんの束の間の戯れで手を付けた、それもエルフの女が生んだ子供を久しぶりに見た、父上、ムググ様の顔を私は忘れないだろう。
その日から私の世界は、狭く、窓のない地下牢だけになった。
「あぁ、セリス、私の側に戻って来てくれたのだな。会いたかったぞ、セリス。」
私は、誰?
父上の、ムググ様の娘?
「セリス、早く大きくおなり。」
「・・大きく?」
「そうだ。そうすれば、セリスは私の妻になれる。」
「・・・。」
それとも、私はムググ様の女?
「私を受け入れるぐらい大人になるまで、この地下牢で誰の目にも触れさせず、大切にお前を守ろう。」
大人になど、なりたくない。
ムググ様の狂気を孕んだ眼差しを浴びながら、私の心は死んでいった。
「ーー・・私は、なぜ、生まれたの?」
ムググ様の要望に喜んで娘である私を差し出した母上。
私の生まれた意味は何?
母上にも、父上にも愛されないユリーファ。
必要なのは、この血と顔だけ。
「父上。」
「セリス、違う、ムググだろう?」
「・・はい、ムググ様。」
ユリーファは、この世界にはいない。
誰にも会わない日々の中、父上の、ムググ様の為に生きる人形。
ーーそれが、私、ユリーファ。
「・・何?」
そんな日々も、8年。
13才になった私は、地下牢へ響き渡る振動に身を竦ませる。
「ーー迎えに来ました、ユリーファ。」
私の世界が壊れた日。
リリスと名乗った人とは違う女性は、私を地下牢から連れ出してくれた。
「・・あの、どこへ行くのですか?」
「貴方の家族の元へ。」
「家族・・。」
それは、母上の事だろうか?
それとも、父上、いいえ、ムググ様の事?
「っっ、」
ーーーー私は、ムググ様が望む大人になってしまったの?
ぞわりと、身体を震わせる。
逃げ出したい。
『良いですか?ユリーファ、父上の、ムググ様のご命令は絶対ですよ?』
『ムググ様の娘と言えど、ご迷惑になるような事はしてはなりません。ユリーファ、分かりましたね?』
が、母上の言葉が私を縛り付ける。
逃げる事など出来ない。
「ユリーファ、彼が貴方の兄で、ディオンと言うの。」
恐怖と不安に怯える私が連れて行かれた先にいたのは、思い描いた2人のどちらでもなかった。
「お兄、様・・?」
私に良く似た、お兄様。
「ユリーファ、助けられず、すまない。」
初めてだったと思う。
ユリーファを見てくれた人は。
お兄様に抱き締められた私の身体は、ようやく普通の温もりを知った。
「わ、私が、片、羽?」
「ひっ、いゃぁあッ!」
「そ、そんな、う、嘘だ!」
だから、私の家族だった人達が、これから不幸になろうが心が揺れ動く事はないだろう。
当然でしょう?
私を本当の意味で愛してくれない人達をどうして大切に思えるのか。
「っっ、た、助けてくれ、セリス!」
「・・私は、セリス様では、ありませんと言ったはずですが?」
縋り付こうとするムググ様から、一歩身を引く。
もう、この人に触れられたくなどない。
「セリスっっ、!」
「父上、貴方はこの里から外に出る事は生涯叶いません。どうぞ、このまま、この里で慎ましく余生をお過ごしください。」
顔を歪ませる父上に一礼して背を向けて歩き出す。
『良いですか?ユリーファ、父上の、ムググ様のご命令は絶対ですよ?』
『ムググ様の娘と言えど、ご迷惑になるような事はしてはなりません。ユリーファ、分かりましたね?』
母上は、数年前に儚くなった事を知った。
私には知らされなかった事実。
さようなら、父上。
貴方はもう、永遠に必要ないのです。
「早急に父上達を、私が過ごしていた離れへお連れして。これ以降、外へ出る事を長として禁じます。」
「はっ、」
「かしこまりました。」
私の命令に頷いた数名が屑達を連れ出そうと動き出した。
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