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第7章〜精霊編〜
旅立ちと伝承
しおりを挟む本日の天気は快晴。
雨の心配は今の所はなしの様だ。
まさに旅立ち日和。
「っっ、あぁ、ディア様、どうぞ、ご無事で!」
「お帰りをお待ちしております!」
皆んなからの大袈裟な見送りを受けながら、私は目尻を下げて頬を掻く。
・・・なんか、泣きすぎじゃない?
「一生の別れじゃないよ?」
「っっ、それでも、ディア様が自分達のお側にいないのは寂しいのです!」
私達が留守の間、この屋敷の管理の全てを任せるロッテマリーが食い付く。
ロッテマリーに同意とばかりに、他の皆んなも頷いていた。
「ロッテマリー、そんな風に言ってディア様の事を煩わせてはいけませんよ。」
「リリスさん。」
厳しい声で嗜めるリリスの登場でロッテマリー達の勢いも無くなる。
さすがは、リリス。
今日も、とても頼りになります。
「ディア様、さぁ、そろそろ行きましょう。」
「う、うん。」
・・・良いの、かな?
後ろ髪引かれる。
「くっ、リリスさんはディア様と一緒に行けるからって!」
「ずるいです、リリスさん!」
「僕もディア様と一緒に行きたいのに!」
悔しさに歯軋りをする皆んなを尻目に、私達は馬車へと乗り込んだ。
「じゃあ、皆んな行ってきます!」
皆んなへ手を振る。
きりっと引き締まる皆んなの顔。
「「「行ってらっしゃいませ、ディア様。」」」
一斉に皆んなが頭を下げた。
少しのごたつきはあったものの、無事に旅に出発です。
馬車が走り出した。
運転は馬車を引くエトワールに任せ、私は快適な中でまったり本を読んで寛ぐ。
「ディア様、お茶はいかがですか?」
「ん?」
アディライトの声に読んでいた本から顔を上げる。
「ディア様のお好きな紅茶ですよ。」
「ありがとう。」
読みかけの本に栞を挟み脇に置くと、笑顔でアディライトから紅茶の入ったカップを受け取った。
「ん、美味しい。」
口を付けたカップの中身は私の好きな紅茶。
しかも私好みの甘さの。
「それにしても、ディア様は先ほどからずっと何の本をお読みなのですか?随分と熱心に読んでいますね?」
「ん?ふふ、妖精族について、ね?」
私が馬車の中で読んでいるのは妖精族について書かれた書籍。
まずは、これから会うディオンのお父様や一族達である敵を知る事は大事でしょう?
「まぁ、妖精族の?」
「あと、エルフの事とか。ディオンいわく、エルフも一緒に森の中で暮らしているらしいから。」
あまり世間に知られていない、妖精とエルフの2つの種族。
書かれていることも少ないが。
「何も知らないよりは、自分達を調べられていた方が怖いと思わない?」
何も知識がないよりはマシ。
私が何も知らない無知のままでは、きちんと相手ができないもの。
「ふふ、しっかりと学習は欠かさないわ。」
遊ぶ相手の事は、ね。
書籍に書かれている事を要約すると、ある精霊の姫の子供が最初の妖精族であるらしい。
森を住処にし、精霊を信仰するエルフにとって妖精族は尊い存在なんだとか。
「信仰、ねぇ、」
ぱたりと読んでいた本を閉じる。
信仰が悪い事だとは言わないが、妄信的に信じるのはいかがなものか。
「頭が凝り固まっていそう。」
「多種族のことを見下し、人間との関わりを少なくしたので、それは仕方ない事なのでは?」
とは、ディオン。
「妖精族やエルフ族は身内だけで固まるしか能がないのですよ。」
「ディオン、辛辣ね。」
気持ちは分からないではないが。
その強い信仰ゆえ、片翼だったディオンは一族達から迫害されたのだから。
馬車はディオンの生まれ故郷へと進む。
「ーーーーもう少しでディオンの生まれ故郷へ着くわね。」
「はい。」
ディオンが頷く。
私達が旅に出てから2日目。
今回の旅の目的地である迷いの森へ着く。
「不安?」
「不安と言うより、あちらのディア様への対応が分かりきっているので怒りがこみ上げますね。」
「あら、その期待を裏切るかもよ?」
「ありえませんよ、ディア様。そうでなければ、とっくに人間達と盛んに貿易を行うはずですから。」
「なるほど。」
ディオンの言う事も一理ある。
今でも人間との交流がないのは、ディオンの知る自分達主義だからなのか。
「ふふ、なら、尚更この先へ行くのが楽しみ。」
その傲慢さ。
そして愚かしさを知ってもらわなきゃ。
「うーん、逆に私への暴言を吐きそうな者達を、皆んなが始末してしまう方が不安ね。」
溜め息を吐いた。
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