184 / 424
第6章〜宮廷編〜
閑話:手の平の上で踊る者
しおりを挟むミフタリアside
歩き出した男の背中に冷笑を向ける。
少しの真実と嘘を混ぜた私の話を簡単に信じた、バカな男。
「私を疑わない自分が悪いのよ?」
私は何も悪くない。
ただ、私は可哀想な叔父様を助けただけ。
自室へ帰りながら口角が上がる。
「ふふ、それも目撃者もいないのだから私を責められる者などいない。」
ここに来るまで誰にも姿を見られぬ様に細心の注意を払った。
目撃者はいない。
「ちゃんと、私の邪魔をするあの女を始末してね、叔父様?」
その為に危険を承知で貴方の事を牢屋から逃したのだから。
私の計画は完璧。
後はあの女が消えるのを待つだけ。
「これで貴方は私だけのものになるのね。」
その手に触れ、その声を聞く。
私だけを見つめる瞳。
「あぁ、早く貴方に会いたいわ。」
誰にも邪魔せない。
主人を失った貴方の事を私が迎えに行くの。
「ーーー・・ミフタリア様、貴女様は自室で謹慎中のはずでは?一体、この様な場所で何をなさっていたのですか?」
・・・そう、思っていた。
聞こえた冷ややかな声に慌てて振り返る。
「っっ、さ、宰相!?」
私を見つめる宰相の姿に、ぎくりと肩を震わせる。
・・・なぜ、宰相がここに?
「私の問いにお答え下さい、ミフタリア様。貴方様は王様の命により自室で謹慎中のはずですよね?」
「す、少し風に気分転換に当たっていただけよ。」
誤魔化さねば。
外に出ていた所を宰相に見られてしまったのは仕方ないとしても、叔父様を逃した事は何があっても隠さねばならない。
「・・ミフタリア様は謹慎中のはずなのに?」
「っっ、う、うるさいわね!私が外に出てはいけないの?」
「そうですか。分かりました。」
宰相が頷く。
・・誤魔化せた?
助かったと、小さく安堵の息を吐く。
「ーー・・貴方は、そこまで愚かな方だったのですね。」
「は?」
ぽかんと口を開く。
愚か?
この私が?
「っっ、な、不敬な!」
この国の第一王女たる私に対して、宰相であれ不敬な物言いは不敬だ。
宰相を許せる訳がない。
「不敬?」
その口元に浮かぶ冷笑。
「王命を破った貴方が、それを私に言いますか?」
「え?」
「貴方への謹慎は、陛下からの王命です。それを破っている貴方は不敬ではないと?」
「っっ、一体、何を、」
言っているの?
この私が不敬だと?
「ミフタリア様、陛下は全てをご存知です。」
「全て?」
「えぇ、先程まで貴方が何をしていたのかを知っておられますよ。」
「っっ、!?」
「今の貴方は、ただの犯罪者に過ぎない。」
犯罪者?
この高貴なる私が犯罪者だと言うの?
「っっ、無礼者!この国の王女たる私に犯罪者などと何たる物言いなの!」
きつく宰相の事を睨むが、その顔色は変わらない。
平然とした表情を崩す事はなかった。
「ミフタリア様、地下牢に見張りが少なかった事を不審に思わなかったのですか?」
「そ、れは、」
確かに見張りの兵が少ない事を不審には思った。
だが、持ち場を離れる職務怠慢な兵だと思っただけで、私の計画的に邪魔な見張りが少なくて好都合だったから気にしていなかったのだ。
「哀れですね、ミフタリア様。あの方の手の平の上で貴方は踊っていたに過ぎません。」
「あの方・・?」
宰相の分かりづらい物言いに眉根を寄せる。
誰の事を言っているの?
「今頃、カーシュ公は謀反の罪で囚われている事でしょう。そして貴方の身柄も謀反の罪で拘束させていただきます。」
「・・は?」
謀反の罪で私を拘束?
「宰相、何を言っているのかしら?私は謀反など企てなどいないわ。」
「いえ、謀反を企てていたカーシュ公を逃した事により、貴方も一味として見られたのですよ。当たり前ですよね?貴方自らの手で、牢屋の鍵を無本人であるカーシュ公へ渡したのですから。」
「な、何を、」
「牢屋で貴方がした事は全て見させていただきました。」
「!?」
まさか、宰相に私のした事を全て見られていた?
背中に冷や汗が流れ落ちる。
「陛下からの伝言をお伝えします。『もはや、親子の情は与えない。』とのお言葉でした。」
「っっ、いや、」
嘘よ。
そんなの宰相の嘘に決まっているじゃない。
「貴方の身柄を拘束します。」
私はこの国の王女よ?
愛される存在。
「っっ、や、違う、嘘よ、こんな、お父様っっ、!!」
私の目から涙が散る。
迫り来る兵に私の身体はその場に崩れ落ちた。
「いやぁぁっっ、」
ーー・・手の平の上で踊らされていたのは、一体、誰だった?
11
お気に入りに追加
2,256
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた
愛丸 リナ
恋愛
少女は綺麗過ぎた。
整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。
最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?
でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。
クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……
たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた
それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない
______________________________
ATTENTION
自己満小説満載
一話ずつ、出来上がり次第投稿
急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする
文章が変な時があります
恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定
以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる