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第6章〜宮廷編〜
閑話:手の平の上で踊る者
しおりを挟むミフタリアside
歩き出した男の背中に冷笑を向ける。
少しの真実と嘘を混ぜた私の話を簡単に信じた、バカな男。
「私を疑わない自分が悪いのよ?」
私は何も悪くない。
ただ、私は可哀想な叔父様を助けただけ。
自室へ帰りながら口角が上がる。
「ふふ、それも目撃者もいないのだから私を責められる者などいない。」
ここに来るまで誰にも姿を見られぬ様に細心の注意を払った。
目撃者はいない。
「ちゃんと、私の邪魔をするあの女を始末してね、叔父様?」
その為に危険を承知で貴方の事を牢屋から逃したのだから。
私の計画は完璧。
後はあの女が消えるのを待つだけ。
「これで貴方は私だけのものになるのね。」
その手に触れ、その声を聞く。
私だけを見つめる瞳。
「あぁ、早く貴方に会いたいわ。」
誰にも邪魔せない。
主人を失った貴方の事を私が迎えに行くの。
「ーーー・・ミフタリア様、貴女様は自室で謹慎中のはずでは?一体、この様な場所で何をなさっていたのですか?」
・・・そう、思っていた。
聞こえた冷ややかな声に慌てて振り返る。
「っっ、さ、宰相!?」
私を見つめる宰相の姿に、ぎくりと肩を震わせる。
・・・なぜ、宰相がここに?
「私の問いにお答え下さい、ミフタリア様。貴方様は王様の命により自室で謹慎中のはずですよね?」
「す、少し風に気分転換に当たっていただけよ。」
誤魔化さねば。
外に出ていた所を宰相に見られてしまったのは仕方ないとしても、叔父様を逃した事は何があっても隠さねばならない。
「・・ミフタリア様は謹慎中のはずなのに?」
「っっ、う、うるさいわね!私が外に出てはいけないの?」
「そうですか。分かりました。」
宰相が頷く。
・・誤魔化せた?
助かったと、小さく安堵の息を吐く。
「ーー・・貴方は、そこまで愚かな方だったのですね。」
「は?」
ぽかんと口を開く。
愚か?
この私が?
「っっ、な、不敬な!」
この国の第一王女たる私に対して、宰相であれ不敬な物言いは不敬だ。
宰相を許せる訳がない。
「不敬?」
その口元に浮かぶ冷笑。
「王命を破った貴方が、それを私に言いますか?」
「え?」
「貴方への謹慎は、陛下からの王命です。それを破っている貴方は不敬ではないと?」
「っっ、一体、何を、」
言っているの?
この私が不敬だと?
「ミフタリア様、陛下は全てをご存知です。」
「全て?」
「えぇ、先程まで貴方が何をしていたのかを知っておられますよ。」
「っっ、!?」
「今の貴方は、ただの犯罪者に過ぎない。」
犯罪者?
この高貴なる私が犯罪者だと言うの?
「っっ、無礼者!この国の王女たる私に犯罪者などと何たる物言いなの!」
きつく宰相の事を睨むが、その顔色は変わらない。
平然とした表情を崩す事はなかった。
「ミフタリア様、地下牢に見張りが少なかった事を不審に思わなかったのですか?」
「そ、れは、」
確かに見張りの兵が少ない事を不審には思った。
だが、持ち場を離れる職務怠慢な兵だと思っただけで、私の計画的に邪魔な見張りが少なくて好都合だったから気にしていなかったのだ。
「哀れですね、ミフタリア様。あの方の手の平の上で貴方は踊っていたに過ぎません。」
「あの方・・?」
宰相の分かりづらい物言いに眉根を寄せる。
誰の事を言っているの?
「今頃、カーシュ公は謀反の罪で囚われている事でしょう。そして貴方の身柄も謀反の罪で拘束させていただきます。」
「・・は?」
謀反の罪で私を拘束?
「宰相、何を言っているのかしら?私は謀反など企てなどいないわ。」
「いえ、謀反を企てていたカーシュ公を逃した事により、貴方も一味として見られたのですよ。当たり前ですよね?貴方自らの手で、牢屋の鍵を無本人であるカーシュ公へ渡したのですから。」
「な、何を、」
「牢屋で貴方がした事は全て見させていただきました。」
「!?」
まさか、宰相に私のした事を全て見られていた?
背中に冷や汗が流れ落ちる。
「陛下からの伝言をお伝えします。『もはや、親子の情は与えない。』とのお言葉でした。」
「っっ、いや、」
嘘よ。
そんなの宰相の嘘に決まっているじゃない。
「貴方の身柄を拘束します。」
私はこの国の王女よ?
愛される存在。
「っっ、や、違う、嘘よ、こんな、お父様っっ、!!」
私の目から涙が散る。
迫り来る兵に私の身体はその場に崩れ落ちた。
「いやぁぁっっ、」
ーー・・手の平の上で踊らされていたのは、一体、誰だった?
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