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第五章 祈りの王都ダナ
58.悪役令嬢は確かめる
しおりを挟むニケルトン公爵邸での用事を済ませて、私たちは早々に帰路についた。幸運なことに玄関を開けるとちょうど帰宅したネイブリー伯爵夫婦、つまりアリシアの両親はそこに居た。
「あの……お父様、お母様」
「お帰りなさい、アリシア。どうしたの?」
「少し、お話よろしいですか?」
「ええ。もちろんですとも」
隣に立つ夫のドイルを見遣り、モーガンは頷く。
近くに控えていたメイドの一人にお茶と菓子を運ぶように手配して、母は客間へ私たちを呼んだ。
今更の話ではあるけれど、こうして対峙してみると黒髪のドイルと白に近いブロンドのモーガンから、ピンク髪のアリシアが生まれるのは考え難い話。しかし面と向かって「私は養子ですよね?」とも切り出しにくい。
どうしようかと困っていると、その様子を見たニコライが隣で口を開いた。
「ネイブリー伯爵、デズモンドという場所へアリシア様を幽閉する話はメイドから伝えられたんですよね?」
「ん?……ああ、サラが王室の使いからの手紙を受け取ったのだ。王太子殿下も共に来ていたらしいが、あいにく私たちは留守をしていて」
「確認はされなかったのですか?婚約者である彼女を幽閉するなんて、信じられないことでしょう?」
「しかし、受け取った紙には王家の勅命を示す印が入っていたし…何より殿下が直々に来るなど…」
のんびりと受け答えする父に私は横から口を挟んだ。
「お父様、その命令は嘘だったのです。エリオット様に確認しましたが、デズモンドへは医師に診せる目的だったと彼は仰っていました」
「なに……?」
驚いた顔でドイルは眉を上げる。
ネイブリー家の両親は温厚で優しいけれど、人の悪意には鈍感そうだと思った。もしくは、私が家を出る際に父が提案したように、国王に撤回を求めていればこのような誤解は防げたのだろうか。
「では、亡くなったサラがサバスキア出身だということはご存知でしたか?」
「サバスキア?」
「西部の田舎町です。お父様たちも知っているはずですが」
「……貴方、」
心配そうな顔でモーガンがドイルの腕に触れる。
丸い顔をわずかに歪めて、ドイルは小さく息を吐いた。
どうやら、知らないわけではないらしい。
「サバスキアか……その名を知っているということは、アリシア、お前はもう聞いたのか?」
「はい。私がネイブリー家に養子としてもらわれたと」
「……今まで話していなかったことを、どうか悪く思わないでほしい。私たちはお前を本当の子供だと思っているし、事実を知って引け目を感じるなどしてほしくなかった」
「お父様たちの気持ちは分かります。私が知りたいのは、養子として引き取られた時の話です」
「というと…?」
「孤児院の方達は、私の出生について何か言っていましたか?」
思い出すように目を閉じるドイルの横で、モーガンも首を傾げる。どうやら二人はアリシアが双子であったことは聞かされていないようだ。
私が来週行われる王妃の誕生日会に参加する予定であることを伝えると、両親は「自分たちも同行する」と揃って口にした。形式上はまだアリシアとエリオットは婚約関係にあるのだから、その判断は正しい。
問題は、彼自身が匿っているリナリーへどう対処するのか。
その場でアリシアに対して婚約破棄を宣言する可能性もある。私自身はべつに大丈夫だけれど、これ以上アリシア・ネイブリーという令嬢を惨めな目に遭わすことは出来れば避けたい。
そして、どうしても捨て切れないのはリナリーによる魅了なのではないかという説。魅了のメカニズムは分かっていないけれど、何かその証拠が掴めるならば彼女に会う意味もあるというもの。
しかし、それは同時に『エタニティ・ラブサイコ』という物語そのものにノーを突き付けることを意味する。
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