【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
41 / 95
第三章 南の楽園マリソル

39.悪役令嬢は言葉に詰まる

しおりを挟む

 返す言葉を失った。
 あまりにも、予想外で。

 懺悔室の中は薄暗くて少しカビ臭い。こんな場所に私を呼び寄せてまでニコライが話したかった理由が、ようやく理解できた。明かした名前に付随する話にしては、随分と重たい話だと思う。

 お陰で私は今、とても混乱している。


「………貴方が私を呪った…?」
「とても強力な魔力を持った子供がいると女は悪魔に伝えていたよ。それが君だったなんて……」
「どういうこと?」
「船の上で出会った時の君からは強い魔力を感じなかった。君はあの悪魔にすべてを奪われたのか?」
「ちょっと待って…整理が、」
「悪魔が女とどういった契約を結んだのかは知らない。与えられた魔力がどれだけなのかも僕は分からないけど…」
「ニコライ、待ってってば!」

 叫ぶように制止すると声は聞こえなくなった。

 私は情報の処理に行き詰まっていた。ただでさえ正規ルートを外れて右も左も分からない破天荒ルートを突き進んでいるのだ。ここで新たにニコライの過去が明かされても、先ずは私は情報を頭の中で並べる必要がある。

 十二歳という若さでエリオットの婚約者に選ばれたアリシア・ネイブリー。五歳年上のエリオットの成人を見据えての選定だと思うが、同年代の令嬢は不作だったのだろうか。それとも後に登場するヒロインと同い年の婚約者を当て馬にすることで比較しやすいようにした?

 いや、今はそんなどうでも良いことを気にしている場合ではない。クロノスから聞かされた十二歳でアリシアを呪った人物の核心に迫る情報を受け取ったのだから。契約の間、一時的に悪魔を降ろす器として使われたのがニコライ。つまり、彼は術師である女の顔を知っているということ。

 その女に接触すれば、掛けた呪いを解くことが出来るのではないか。そして失われたアリシアの魔力と彼女の魂が戻ってくるかもしれない。

 そうすれば、私はーーーーー


(……私は…どうなるんだろう?)

 元の世界に帰れるの?それとも地縛霊みたいな感じになって現世に戻ったら墓の上をフラつくとか?

「アリシア……?」

 黙り込む私を心配するように、ニコライの声が耳に飛び込んだ。ハッとして顔を上げながら、そういえば表情までは見えないのだと少し安心する。まったくもって大丈夫ではないから、どうしたら良いか分からない。強くて気丈な悪役令嬢の中身は、ただのくたびれた転生者OLなのだ。

「君にどれだけ謝っても許されることではない。僕の迂闊な選択で君を呪うことになってしまった…」
「………、」
「毎日礼拝堂で自分の行いを懺悔していた。そんなの何の意味もない、独りよがりでしかないけれど」
「ねえ、ニコライ……その女の顔は見たの?」
「え?」
「術師の顔よ。どんな人が私を呪ったのか、知りたいと思うのは当然のことでしょう?」
「ああ…普通の、本当に普通の女だったよ。髪は茶色で…そうだ、一緒に女の子を連れていた」
「………女の子?」
「帽子を被っていたからよく見えなかったんだけど…こんなんじゃあ、情報が足りないよね…」
「そうね、」

 ごめん、と溢すと再びニコライは口を閉ざす。
 彼が何か思い出そうとしてくれているのか、はたまた気の毒になって黙り込んでいるのか分からなかった。

 名探偵を気取るには、出揃った情報はあまりに頼りない。私に某サッカー少年や、口煩いバディを引き連れた英国紳士が憑依したとしても、ここから真実に辿り着くのは時間が掛かるだろう。

「あ、そういえば」
「?」
「君が着けているネックレスは人に貰ったんだっけ?」
「ええ。大切な人からの贈り物よ」
「こんなこと言うの、気を悪くしないでほしいんだけれど……僕が会った女も似たようなものを着けていたんだ」
「え?」
「いや、見たものは別物だとは思うんだけど…変なこと言ってごめん」

 心臓の鼓動が脳を揺らすようだった。
 これは、サラにもらった御守り。ニケルトン侯爵家で出会った乳母によると、中身は西部のサバスキア地方に生息する蝶の羽だとか言っていたっけ。

 とても貴重なものだと言っていた。
 そんなものを偶然、その女は持っていたと?

 思い浮かぶのは最後に見たサラの姿。人の良さそうな丸い瞳、半月の形に弧を描いた唇。そして、夜風に靡くダークブラウンの髪。


「あの、ニコライ…?」
「どうしたの?」
「貴方の自責の念を利用するようなことをして悪いけど、お願いを一つ聞いてくれない?」
「なんでも聞くよ。僕に出来ることならば」
「貴方に…会ってほしい人がいるの」

 エリオットの母親である王妃の生誕祭までの滞在場所は決まった。私は一度、自分の家に帰る必要がある。





◆おしらせ

明日から更新を一日二話に変更します。
皆様のおかげでランキングに載ることができました!
本当にありがとうございます。

小説大賞の方も順位が上がっていたので、投票いただいた方はありがとうございます。感謝感謝です。
誤字脱字報告も非常に助かります。承認不要の方が多いので、この場を借りてお礼させてください。

今回ネタバレになりそうなタグを付けなかったのですが、悪いことをした人は報いを受けます。「自分がした行いは返ってくる」らしいので。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...