【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

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第三章 南の楽園マリソル

38.悪役令嬢は懺悔を聞く

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 夕食を食べて、少し早い時間だったけれど礼拝堂へ向かった。夕方になると教会自体は礼拝者を受け付けていないようで、静まり返った敷地内に私の靴音だけが響く。

 ペコロスは例の如くまた眠ってしまっていたので、少しの間だけならばと思い、そのまま置いてきた。ニコライの話の内容は気になるけれど、早めに様子を見に帰らねば。

 等間隔に置かれた長椅子に座ってたら、後ろの扉が開いてニコライが入って来た。私の隣を通り過ぎた彼は、着いてくるように伝えて先を歩く。

 いつもの彼らしくない態度だ。私の方など一切振り向かないし、笑顔も見せない。ただ、切羽詰まったような、余裕のない顔は気掛かりだった。白いシャツに白いズボン。ニコライが歩く度に擦れる衣服の音を私は黙って聞いていた。


「この場所を知っている?」

 やがて辿り着いたのは、電話ボックスのような小さな一人用の空間が二つ並んだ場所だった。大人が一人やっと入れるぐらいの小部屋には、顔を隠すためか上半身を覆うぐらいの長さのカーテンが付いている。

「いいえ、これは……?」
「懺悔室だ。赦しの部屋と呼ばれることもある」

 その名前は聞いたことがあった。
 たしか一方の部屋に罪を告白したい人間が入って、誰にも話せないようなその話を神父様などの聖職者に聞いてもらうというものだったはず。

 あの便利なシステムはこの世界にもあるのね、と内心驚いていたらニコライはスッと片方の部屋に足を踏み入れた。

「え、どうしたの?何をする気?」
「君もそっち側に座って」
「こんな場所で話さなくても、」
「アリシア……お願いだ」

 有無を言わさぬ強い口調に、私は少し躊躇した後、大人しく身体を押し込んだ。清潔な教会だけれど、やはりこういった古いものからは年月を経た独特な匂いがする。理科室なんかがこういった匂いだったような……


「君がアリシア・ネイブリーだと聞いた時、すぐにはその名前にピンと来なかった。随分と日が経っていたから、忘れてはいけないと思いつつ、僕の頭は平和ボケしていたんだろうね」

 ニコライは自分に言い聞かせるように静かに言葉を紡ぐ。
 仕切られた壁の向こうにある表情は一切見えず、私はただその声音から彼の様子を想像した。力なく、落ち込んだ声。

「アリシア、君は以前僕の服装が暑そうだと言ったね」
「あ……えっと、そうね…」
「たしかに温暖なマリソルでこんな格好をしていたら、そう思われても仕方ないだろう。だけど軽装は出来ないんだ」
「聖職者だから?」
「背中から腕にかけて、大きな火傷の痕がある」
「………っ!」

 息を呑んだ音がニコライに伝わっていないことを祈った。

「もう十年も前に負ったものだ。忘れもしない。十年前、僕は神職を志すことに疲れて、家出をした。夜のうちにマリソルを出て王都へ向かったんだ」
「…………」
「十代前半で訪れた初めての王都はすごく魅力的だった。しかし同時に、残酷なまでに弱者には冷たかった。子供の家出だ、持ち金も限られている。すぐに食べ物に困って、細い路地裏に身を寄せるように何日か過ごしたよ」

 私なんかよりよっぽど辛い経験をしたのだろう。
 夜間に身を潜めて眠るときの不安は私も分かる。ネイブリー家を出てすぐは、行くアテもないので街角で眠った。たった数時間でも落ち着いて眠ることは出来ず、心は心配で震えたのだ。今の私よりもずっと幼いニコライがどんな気持ちだったかなんて、想像に難しくない。

 不安で不安で、先の見えない恐怖に襲われていたはず。

「そんな時だった。ある女が声を掛けて来たんだ」
「……?」
「簡単な仕事があると。パンを片手にチラつかせながら、子供でも出来るから大丈夫だと誘ってきた」
「その仕事は……」
「空腹で目が眩んでいたんだろうね。まともな判断なんか出来なかったよ。犬のように飛び付いて女の言われるがままに行動した。指定された場所に行って、間抜けに拘束されたんだ」
「なんですって?」
「与えられた役目は悪魔を降ろす器だった。女からは魔力の気配がしたが、微量だったから油断していたのもある」

 なんと声を掛ければ良いか分からない。
 語られた内容はあまりに酷く、悲惨だ。

 聖職者としての道を逃れるために向かった先で、あろうことか悪魔を呼ぶための道具に使われてしまうなんて。ニコライの境遇を憂いていたら「話はまだ終わりじゃない」と、震える細い声が聞こえた。


「女が呼んだ悪魔は下級のものじゃない。召喚した悪魔に対して術師の魔力は小さ過ぎた」
「…………」
「僕が痛みに苦しむ中で女は伝えた、より強い魔力を与える…だから、ある人間に取り憑いてほしいと」

 苦痛に歪むニコライの顔が、見える気がした。

「悪魔が取り憑いた人間の名前は、アリシア・ネイブリー。十年前の君を呪ったのは僕だ」

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