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第三章 南の楽園マリソル
26.悪役令嬢は人を訪ねる
しおりを挟む礼拝堂を見た後、私たちはマリソルの街へ出て食事をする場所を探した。ニコライが紹介してくれた肉料理の店は教会から遠くない場所にあり、頼んだ豚肉や牛肉を店主がその場で豪快に焼いてくれる面白い店だった。船酔いが少し残っていたのか、そこまで食欲はなかったけれど、それでも十人に私はその時間を楽しんだ。
人命救助やら宿を提供してくれたお礼ということだったので、私は支払いを済ませた後でニコライに向き直る。これからルイジアナ・コレツィオに会いに行く必要があるのだ。
「ニコライ、色々と案内してくれてありがとう。私はこれから会いたかった人の元を訪ねてみようと思うの」
「分かった。アリア、また帰ったら話は出来る?」
「ええ、もちろんよ」
「その魔獣は連れて行くの?」
「うーん……」
正直なところ、ペコロスを連れて歩くのはかなりキツい。だけれど私の勝手で招き入れてマリソルまでお供させているので、到着早々に一人でお留守番させるのも申し訳ない。
答えに困っていると、ペコロスは何かを察知したようにブフブフッと鳴き始めた。置いていかないでくれ、と言うようなその悲しげな鳴き声に私はますます判断に苦しむ。
「良かったら、教会で預かっておくけど?」
「いえ…連れて行くわ。ペコロスも慣れない場所で不安だと思うし、休憩しながら歩けば大丈夫だと思う」
「そう?あまり無理はしないでね」
良い子にしろよ、とニコライが嗜めるようにペコロスの頭を撫でようとすると再びグルグルと喉を鳴らして小さな魔獣は警戒態勢を見せた。まだニコライと打ち解けてくれる気はないらしい。
苦笑するニコライに頭を下げて、私たちはルイジアナ・コレツィオの家がある湖の方へと踏み出した。
◇◇◇
「それにしても……湖というより池?」
プライベートビーチならぬプライベート湖なのかと思うぐらいにその場所は小さかった。青く澄んだ水を覗き込むと、見たこともない魚が群れを成して泳いでいる。
道中で手に入れた丸眼鏡を掛け直す。瓶底眼鏡はなかったけれど、念のため掛けておくことに越したことはない。ルイジアナ相手に顔を隠す必要はないと思うが、いつどこでエリオットとその関係者に出くわすか分からない。
なんとか人に聞きながらここまで辿り着いたけれど、ルイジアナの家が分かりやすい場所にあって良かった。街から少し外れた場所にある湖のほとりに、彼女の家はひっそりと佇んでいた。木でできた温かみのある家からは湖に向けて小道が伸びている。レモンイエローのパラソルの下で朝ごはんを食べたら最高においしいだろう。
目的地に到着したので、手を休めるためにペコロスを下ろすと嬉しそうに湖に向けて走って行った。その様子を横目で見ながら私は呼び鈴を鳴らしてみる。コレツィオと書かれた郵便受けと一体化したその表札も、木を組み立てて作ったお手製のようだった。
「はいはい~!あら、珍しい若い子ね……?」
やがて扉を押し開けて顔を覗かせたのは、赤いフレームの眼鏡を掛けた優しそうな女性。アリシアの両親より少し老いて見える彼女が、探し求めていたルイジアナ・コレツィオであることはすぐに分かった。
というのも、彼女は片手に泡立て器を持ってエプロンを引っ掛けていて、家の中からは甘いお菓子が焼けるような良い匂いが漂ってきていたから。
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