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第三章 南の楽園マリソル
24.悪役令嬢は港町を歩く
しおりを挟む船がマリソルの港に到着した時、ちょうど昼時ということもあって飲食店には人が溢れていた。私はニコライと並んで船を降りながら今後の流れを考える。
先ずは今日の宿を何処かで取るべきだろう。
夜になって路頭に迷うことだけは避けたい。
「ニコライ、ごめんなさい…私は先に宿を探そうと思うんだけど良い場所を知らない?」
「宿をまだ取っていないの?」
「ええ。この辺りは詳しくないから、着いてから探そうと思っていて」
「じゃあ、教会の隣にある宿舎に泊まれば良いよ」
「宿舎?」
「うん。本当は遠くから来た礼拝者のために設けられているんだけど、君は僕の友人だから神様も許してくれる」
聖職者がそんな軽いノリで神様とやらを語って良いのだろうか。この世界の宗教的な話は分からないけれど、宿を探す手間が省けるのはかなり助かるので、有難くお願いすることにした。
教会には女性の聖職者も多く在籍するようで、彼女らもその場所で寝食を共にしているらしい。その説明を聞いて私は少し安心した。泊めていただく立場のくせに申し訳ないけれど、やはり警戒心は常に持っておくに越したことはない。
どうもニコライが苦手なのか再びブフブフッと怒りを露わにし出したペコロスを宥めながら、私たちはマリソルの街の中心に位置するという大きな教会を目指して歩く。
一日歩けば一周出来るというニコライの言葉の通り、マリソルは比較的小さな島だと思う。温暖な気候故か、街の人たちはみんなノースリーブのワンピースや半ズボンと薄着で歩き回っている。この街の出身と言う割に、長袖長ズボンを着込んできっちりと肌を隠しているニコライの姿は少し浮いて見えた。
「暑くないの?」
「ん?」
「いえ、街の人の服装は軽いから…」
「ああ。僕は聖職者だし、あまり肌を露出するのは好きじゃなくてね。この服、こう見えて結構涼しいよ」
「そうなのね」
薄いシルクのような布地を摘んで見せるニコライに私は頷き返す。たしかに言われて見れば風通しは良さそうだ。一人で納得していると、ニコライの視線が私の胸元の上で止まった。
「それ、綺麗だね。王都で流行っているの?」
「え…?」
「ネックレス。その青い粉を見たことがあるから」
「そうなのね。これは大切な人に貰ったのよ」
「プレゼントなんだね。あ、昼は何を食べたい?船の上では魚が多かったし肉なんかも良いよね」
「それは良いかも」
「オススメの店があるんだ」
串に刺して色んな種類の肉を焼いてくれる、というその店の話を聞いているうちに空腹感が募ってきた。アビゲイル王国にどんな信仰があるのか知らないけれど、特に食べ物の制限などはないようだ。
並んで歩くうちに気付けば目の前には大きな門構えの厳かな教会が建っていた。現代であれば世界遺産に登録されそうな歴史的な建物に私は思わず目を見張る。
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