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第二章 ニケルトン侯爵家

14.悪役令嬢は相談する

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「え?ニケルトン家は王妃様の遠縁なのですか?」

 私は持っていたカップを危うく落っことしそうになった。必要以上に驚いたことを反省しつつ、部屋の中を走り回る双子を見ているフリをする。

「言ってなかったかしら?現王妃のエスティ様は夫の再従兄妹はとこなのよ。だからこうして私たちも仕事をお手伝いさせていただいているの」
「そうだったのですね……」

 気象の観測なんていう特殊な分野だけどね、と笑いながらマグリタは紅茶に口を付ける。

 エスティ・アイデンはアビゲイル王国の王妃であり、エリオットの母親だ。エリオットが幼い頃から病気がちで塞ぎ込んでいるとは書かれていたけれど、彼女の親戚とこのような形で出会うとは。

 エリオットによる断罪イベントから逃げ出すために家を出たのに、転がり込んだ先が遠いと言えど彼の親戚だったのはかなりのアンラッキー。でも、こうして家と食べ物、そして労働の場を提供してくれているのは本当に有り難いことだし、マグリタやその夫のグレイには感謝しかない。

「そういえば、お義父様に何かお話があると言っていたわよね?魔法について聞きたいことがあるとか…」
「あ、そうなんです。魔力の消失について知りたくて」
「なるほど。何か事情がありそうだから深くは聞かないけれど、一度相談してみると良いわ。きっと力になってくれると思うから」
「ありがとうございます!」

 すっかり眠りこけたペコロスをマグリタに預けて、庭へ薬草を取りに出ているというクロノス・ニケルトンところへ向かった。

 秋の涼しい風が静かに草木を揺らしている。ほわほわとした綿毛のようなものが先端に付いた背の高い植物が群生している場所に、クロノスは居た。首に掛けたタオルで顔を拭って、私のことを不思議そうに見る。

「おお、アリアくんだったかな?どうした?」
「あの…マグリタさんから公爵様が魔法学を専門とされていると伺ったので……」
「いかにも、私は魔法学の指導を行っているが」
「実は折り入ってご相談がありまして、」

 こくりと頷くとクロノスは私に付いてくるように合図して建物の中に招き入れた。あまり人に知られたくない話だということを察してくれたようだ。

 私は長い廊下を歩きながら、目の前を歩く初老の男を観察する。ニケルトン家が王妃の遠縁であるならば、クロノスとエリオットの関係性によっては私は彼に相談を持ち掛けることを控えるべきかもしれない。

 意図せぬ場所でエリオット・アイデンと遭遇したことで、正直かなり動揺していた。向こうの発言からして何か勘付いたようだし、このままニケルトンの家に居座り続けることにも不安を覚えている。

 知っていると思っていた物語の世界は、実のところ知らないことだらけで、私は改めて自分がこの世界の住人ではないことを思い知らされていた。冷たいとされていたエリオットの眼差しは本当に心に刺さるようで、彼がもしもアリシアが生きていると知ったならば、容赦なく罰を与えそうだ。

 怖い。恐ろしい。
 逃げたくてたまらない。


 案内された部屋に入り、クロノスは肘掛け椅子に腰掛けた。私は後ろ手に扉を閉めながら様子を窺う。長方形のテーブルを挟んで一つ置かれた椅子に腰掛けると、クロノスは大きく溜め息を吐いて顔を上げた。


「何から話せば良いのか……アリシア、」

 私は大きく目を見開いた。


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