【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
13 / 95
第二章 ニケルトン侯爵家

11.悪役令嬢は魔獣を名付ける

しおりを挟む


 私は途方に暮れていた。

 一日の仕事を終えてヘトヘトになりながら市場へ出向くも、運営は飼い主による魔獣の問い合わせなど来ていないと言う。それどころか、魔獣を連れて市場へ来ることは禁止されているのでやめてください、と言われる始末。

 私は仕方なく、またニケルトンの屋敷へと戻ってマグリタに事情を説明した。マグリタは優しい目で魔獣を覗き込むと「良い子にできる?」と尋ねる。

「ブフッ…ブッフー!」

 どうやら魔獣は彼(もしくは彼女)なりの意思表明をしたようで、おでこの角をブンブン振りながらマグリタに自分がいかに躾の行き届いたペットであるかをアピールしたいようだった。

 その姿には私もマグリタも少し笑ってしまう。

「いいわ、アリア。貴女のことは子供たちも私も気に入っているし、ちゃんとお世話できるなら認めます」
「ありがとうございます!マグリタさん!」
「じゃあ魔獣の餌も用意しなきゃね」
「あ、そうだ……魔獣の餌って…」
「ええ。パリパリの昆虫類よね?」
「……!」

 ギョッとして固まる私の腕の中で、魔獣が小刻みに震え出した。マグリタを凝視しながら必死で何かを訴え掛けるようにバタバタと脚を動かしている。

「あら?昆虫は嫌い?」
「ブフッ!」
「じゃあ私たちと同じもので良いのかしら?」
「ブッフー!」

 大きく頷くように頭を振る魔獣を見ながら、なるほどなかなか意思の疎通も出来そうだと考えた。



 ◇◇◇



 静かな食堂に、私がカトラリーを動かす音だけが響く。今日の夕食はグリルした豚肉だったので、共喰いになってしまうのではないかとやや危惧したが、ほぐして与えると魔獣は嬉しそうにパクパク食べた。

 魔獣のくせにテーブルに乗っていたワインまで欲しがるので、私は常に目を光らせていなければいけなかった。


「貴方にも名前を付けてあげないとね。それとも、もう何か呼ばれ慣れた名前はあるのかしら?」
「ブフンッ」
「なるほど、ないのね。少し待ってね……」
「ブフッ!」
「うーん…ジョン?ちょっと犬っぽいか…」
「ブフッフー」
「ペコロスは?」
「ブフブフッ!」

 嬉しそうにギュッと鼻を押し付けてくるから、気に入ったのかもしれない。この小さくて丸っこい感じは玉ねぎに似てなくもないし、なかなか良いかも。私は柔らかなピンク色の毛を撫でながら軽く魔獣を抱き締めた。

 この子の名前はペコロス、新しい私の家族。

 悪役令嬢のペットにしては可愛すぎるけれど、これからの旅路が一人ではないと思うと安心した。物語の中のアリシアが成し得なかった「家族を作ること」を、その身体を乗っ取った私が実現させるのは感慨深いと同時に胸が締め付けられる。腹を見せてもう眠りに落ちたペコロスの小さな身体から、温かな体温を感じながら私は目を閉じた。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...