【完結】断罪された悪役令嬢ですが、魔王の夜伽相手に抜擢されました。

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
49 / 69
閑話◆ギデオン視点

雨が止んだら3

しおりを挟む


 身体が成長して、いよいよ人間の女を花嫁として迎えるという計画が現実味を帯びて来た頃、ある問題が浮上した。


「その……大変言いにくいのですが……」

 珍しく歯切れの悪い喋り方をするクジャータに先を話すよう促すと、言葉を選ぶことを諦めたのかポツリポツリと語り始めた。

「今のギデオン様では、人間の女を娶っても上手く行為に及べるか少し心配なのです」
「なんだと?」
「ペルルシアの王女を誘拐するというのは、我が魔族の復讐という面からして賛成ですが……このままでは初夜の際に身体を破壊してしまうのではないかと…」
「余計な心配だ。俺はもう十分学んだ」

 言いながら机の上に山積みになった本を指差す。

 何処から集められたのか、古今東西の性の話が羅列されたその書籍たちは、役にたつ知識からただの猥談まで幅広い情報を与えてくれた。医学書なんかも混じっていたので、その辺の人間の男よりは詳しいと自負している。

「しかしですね、先代の魔王様もご結婚の際にはかなり苦労されたのです。なにより、人間は我らより脆く壊れやすい」
「理解している。配慮はして進めるつもりだ」
「配慮してもミスはあります。ここは一度、閨の教育を受けてみてはいかがでしょうか……?」
「………閨?」
「はい。なんでもペルルシアの貴族などは、妙齢になると男女の性交渉について実践を以ってして学ぶらしく」

 ギョロギョロと忙しなく動き回る目玉を見ながら息を吐く。
 この男が人間のこういった話に目がないことは薄々気付いていたけれど、まさか閨教育を進めてくるとは。

 閨が何たるかぐらいは知っている。だけれど、実践となれば相手が必要だ。魔王と夜伽を共にして、その身体を使って教育まで施してくれるような聖母が果たして居るのか。

(………居るわけがないだろう)


 それから慌ただしく時は過ぎ、親切な家臣たちは娼婦や奴隷など手頃な女を見つけては城まで連れ帰ってくれた。

 しかし、実践は簡単な話ではなかった。
 そもそも意識を取り戻して使用人の姿を見た瞬間に発狂したり、会話まで進めたとしても、こちらが緊張のあまり人間の身体を保てずに液状化してしまうと鬼の形相で叫び回る。

 化け物、異形、怪物。
 あらゆる罵詈雑言を受けて思ったこと。

「クジャータ……異種間の愛など成立しない」
「そんな、夢のないことを仰らず」
「俺は現実を見て話している。魔王の夜伽なんて、誰が望んで引き受けるか。死ぬかもしれないんだぞ」
「………それは大袈裟ですよ」
「俺の母は死んだ」

 たくさんの目玉が傷心したように閉じられる。

 彼らの期待に応えたいけれど、期待するたびに裏切られ、己の醜さを知るだけ。相手だって無理矢理に連れて来られているから災難だろう。ペルルシアに返す際には記憶を消す処置をしていると聞くが、恐怖が残らないとも限らない。


 もう諦めようと繰り出した夜会で奇跡は起こった。
 クロエに再会することが出来たのだ。

「見て、グレイハウンド家の売女だわ!」
「多くの令息と噂を流してると聞くけど……」
「だってあの女は情婦だもの。王太子も早く気付けば良いのに、いつまで騙されたフリをするのかしら?」

 ひそひそと交わされるそういった会話からするに、クロエ・グレイハウンドはどうやら大層性にオープンなようで、男を手玉に取って取っ替え引っ替え遊んでいるらしい。

 昔見た記憶の中の彼女にそんな一面があることに驚きつつ、内心「彼女ならもしかしたら」と期待した。

(クロエなら……請け負ってくれるかもしれない)


 しかし、何度か接触を試みたものの、彼女の目はいつも婚約者のライアス王子に向いている。アイコンタクトが取れたと思ってもすぐに視線は外れて、話し掛ける機会は得られなかった。

 忘れてしまったのだろう。
 そう思うことで、心の靄を散らした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...