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49.目覚め
しおりを挟む扉を叩く小さな音で目が覚めた。
僕はもそりとダリアの腕の中から抜け出す。いつの間に眠ったのか記憶がない。勝手に城から逃げ出した僕のことを、きっとアニタや小人たちは探しているはずだ。ドキドキしながら扉を開けるか迷っていると「大丈夫だよ」と扉の向こうから声が聞こえた。兎の声だ。
「レニさん……!」
レニは笑顔を見せて「ダリアはまだ寝てるの?」と聞く。僕は振り返ってまだ起きる気配のない狼を見せた。
「仕方ないね。ダリア、君を探し出すために必死だったんだ。それこそ朝も夜も分からなくなるぐらい没頭してた」
「……すみません、僕のせいで」
「謝る必要ないよ。僕たちの好きでやったことだ」
そこで言葉を切って、レニは後ろを気にするように視線を投げた。霧が濃く立ち込める白い森の中は物音ひとつしない。
だけど、地下世界に生きる小人たちは見えないほどの細い糸で僕を拘束したり、その小柄な身体からは想像もつかないぐらいの怪力持ちだったりする。音もなく移動して僕らの前に姿を現すことも出来るのではないかと思えた。
「これからどうしようね、」
困ったように呟くレニを見て、やはり巻き込んでしまった罪悪感が胸の中で湧き上がる。また意味のない謝罪の言葉を連ねないように、僕が唇をきつく結んでいると、背後でダリアが起き上がる気配がした。
「レニ、来てたのか」
「おはよう。昨日は眠る時間あった?」
「はぁ?」
「久しぶりの再会で、忙しかったかなって」
ニマッと笑顔を見せるレニに、僕は昨日の情事の声が小屋から漏れ出ていたのではないかとビクッとする。
近付いてきたダリアがレニの長い耳を引っ張って嗜めたことで、僕はようやく自分を落ち着かせた。長い耳の先が少しだけ赤くなっていて、不謹慎だけど可愛らしい。
「とりあえず、行くか」
「………え?」
僕は隣に立つダリアを見上げる。
「コソコソ逃げ回っても、また小人に連れ去られたら堪ったもんじゃない。直接話を付けよう」
「で、でも…!地下世界はもともと獣人の出入りが禁止されているから、見つかった途端捕まったり、」
「大丈夫だ、ヒューイ。俺は死なない」
大きな手が僕の頭を撫でる。
荒い手付きの中に彼の優しさを感じた。
レニも眉尻を下げて「仕方ないねぇ」と頷いている。どうやらこの二人は本当に城に出向いて話し合いをするつもりのようだ。
僕はアニタの話や、地下世界で出会った人たちのことを想像してみる。彼らは獣人に対して好意的ではないにせよ、簡単に傷付けてきたりする雰囲気ではなかった。頭の片隅にアニタから聞いた、出会ったことのない父の死因が浮かんだけれど、首を振って追い払う。
「………分かった。僕が案内するよ」
「さすがだね、ヒューくん。君が頼りだ」
勇気を出して僕は頷く。
閉ざされた地下世界と大切な友人である獣人たちを繋げたい。地上では病に蝕まれて役立たずのゴミ屑になってしまう僕だけど、地下世界では精霊王として必要とされている。その上、ゆるやかな時の中で健康な肉体を保つことも出来るらしい。
もしも。
もしも、僕がダリアに地下世界へ残ることを伝えたら。
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