【完結】生贄赤ずきんは森の中で狼に溺愛される

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
48 / 52

48.リターン ※

しおりを挟む
 パソコン機器の修理や取扱を行うコールセンターでの仕事も、入社三年目を越えて、だいぶ板についた接客と対応をできるようになっていたころから、比例するようにして人付き合いが億劫になっていた。

 だからこそ、恋愛に興味が湧かない。人付き合いの極みである恋愛は、穏やかでい続けたいプライベートを消耗する。

(だって、毎日面倒くさい人とかかわっているんだから。そりゃ、人嫌いにもなるさ……)

 毎日かかってくる大量のクレームやとんちんかんな質問に、腹を立てることすらなくなってきていたのだが、どこかでうっぷんは溜まっていた。

 すでに入社六年目、二十八というお年頃。仕事を頑張るためにそれらを発散させる手段が、一人酒をお気に入りの居酒屋で飲むという、何とも色気のない行動になってしまったのは、万葉かずはが根っからの日本酒好きだったからだ。

 黒色の御影石を基調とした壁がオシャレな雰囲気の、女性一人で入ってもカウンターでゆっくり落ち着いてお酒を飲める店が、万葉のお気に入りの居酒屋だった。

 行きつけとなったその居酒屋で、万葉は三年も前からずっと毎週二回、一人酒を楽しんでいる。必ず月曜日と木曜に行く居酒屋に、今日もラスト一日の金曜日を迎え撃つ準備のために向かった。

「お疲れ様でーす!」

「お。恵ちゃんは、今日は一人酒の息抜きタイムの日かな?」

 隣の席で伸びをしていた、元夜の蝶であった先輩、長谷部桃花はせべももかが話しかけてきて、万葉はにこにこしながら頷いた。

「最近ではお一人様女子という言葉があるらしいの。一人酒じゃ色気ないけど、お一人様と言えば聞こえがいいとテレビで言ってたから」

「って言っても、やってることは同じだろう」

 丸めた資料で頭をぽこんと叩かれて、万葉が振り返ると同期でチューターの新海成史しんかいなりふみが、口をへの字に曲げていた。

「結局は日本酒酒浸り、乙女系マスターに愚痴を聞いてもらうという、酔っぱらいの極み。色気もへったくれもないだろ」

「大きなお世話よ、新海。色気なくても生きて行けるし。成績だって先月は悪くなかったんだし」

 それだけどな、と新海が丸めていた資料を広げた。

「見ろよ。また遠藤に抜かれるぞ?」

 広げられた資料を桃花とともにのぞき込むと、今月の中間報告が上がってきていた。桃花が「わーお」と声を上げる。

 そこには、万葉の後輩である遠藤が、僅差で万葉の成績を抜いている。月初の時点では万葉の方に軍配が上がっていたのだが、現時点では遠藤がリードをしていた。そして、こうなってくると、遠藤がいつも大手で勝ち逃げなのを、万葉も知っていた。

「こうなってくると、また恵ちゃん二位キープじゃない?」

「そーゆーフラグだよな、これは。いつものパターンってやつ。新年一発目は良かったんだ、続けて今月も抜いとかないと、さすがに先輩の威厳もかすむぞ?」

 二人に言われて、万葉はあからさまにむっとして口を尖らせた。

「だって仕方ないじゃん、遠藤の方が明らかにクレーム少ないし」

 万葉は成績がプリントアウトされた資料を見て、大きく落胆した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...