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44.居場所◆ダリア視点

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 満月の夜を待っている間はレニのラビットホールで過ごさせてもらった。小人に破壊された扉のことを彼はまだ愚痴っぽく言っていたが、それを理由にして地下世界まで同行するという宣言には驚いた。

「だから、何度言えば良いわけ?扉の修理代を貰うまでは僕は引き下がらないよ」
「お前こそ頑固だぞ。修理代は俺が払うから良いだろう」
「壊した本人が払わなきゃ納得出来ないね!それが物事の道理ってやつだから」
「レニ、分かってくれ。お前を巻き込みたくない」
「よく言うよ。僕を頼って来たくせに」

 それは本当にその通りなので、ぐうの音も出ない。

 レニは白い耳をピコピコさせたかと思うと、キッチンへ飛んで行ってすぐに暖かなシチューが入った皿を二人分持って帰って来た。

 確かに王宮から逃げ出した際に頼って来たのは事実だ。ラビットホールと呼ばれるこの特殊な巣穴に彼が住んでいることは知っていたし、その巣穴が周囲から身を隠すにはもってこいだということも知っていた。昔馴染みであることに甘えて藁にもすがる思いだったことは認める。


「僕ね、ヒューくんに酷いこと言ったんだ」

 レニはスプーンを差し出しながら独り言のように溢した。

「自分の命のことを価値がないって彼は言ったから、思わず悲劇のヒロインみたいに喋るねって……」
「………、」
「でも、生贄として選ばれてこの森に来たってダリアから聞いて納得したよ。要らないものって思うしかなかったんだ。同じ人間から罰ゲームみたいに選ばれて、暗い森に置き去りにされるなんて」

 それっきりレニは黙り込んだ。
 饒舌だったはずの兎の前で湯気を上げる皿を見つめる。

 ヒューイはいつも優しかった。初めこそ戸惑いや抵抗を見せたものの、環境に慣れるのは速く、異種族である自分にも分け隔てない優しさを示してくれた。

 それはきっと、彼自身が孤独や虐げられる悲しみを知っていたからなのではないかと今では思う。毎年女が選ばれていた生贄に男である彼が選出されたのは、その父による推薦だとヒューイは言っていた。村に帰ったところで、意味など無いのだと。


「居場所になりたかったんだ」
「うん?」
「ヒューイが、安心して笑えて、眠ることが出来る…アイツだけの落ち着ける場所になりたかった」
「それ、良いね。教えてあげようよ」
「レニ……」
「お礼とか謝罪とか良いからさ。一緒にヒューくんに言いに行こうよ。君は悲劇のヒロインじゃなくって、幸福な王子様なんだよってね」

 掲げられたスプーンに自分のスプーンを合わせると、チリンと鈴の音のような軽やかな音がした。

 レニの師匠であるウィルコフの話では、明日が一番近い満月の夜らしい。柊の葉の準備はもう出来ている。ウィルコフの話を聞いた翌日に集められるだけ集めて来たから。

 地下世界の入り口は現れるのだろうか。
 ヒューイは、本当にその場所に居る?

 溢れてくる不安や疑念が絶えないけれど、行動しなくては始まらない。それなりの犠牲を伴うとウィルコフは言っていたが、命以外なら何でも差し出せるぐらいの覚悟はあった。

 ただ、またあの小さな温もりをこの手に抱きたくて。


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