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41.兎の師匠◆ダリア視点
しおりを挟むレニが師匠と呼ぶ老人は、森の外れにある大きな木の根元に住んでいた。
本当にこんな場所に?と思いながら見ていたら、いくつかある木のコブの一つを叩いてレニは耳を澄ませ、慎重に外側から押した。どういう構造になっているのかは不明だが、扉のように内に開いたので、笑顔で中へ入る兎に続く。
「レニ!久しいのう!元気か?」
出迎えてくれたのは、長い顎髭を伸ばした老人だった。
「師匠~僕は元気ですよ!こっちは前に話した友達のダリア。僕たちの敵の狼の獣人です」
「おい……!」
「あ、冗談冗談。ダリア、こちらは師匠のウィルコフ先生」
「初めまして…ダリアです」
「ほう。良い面よのう」
丸い眼鏡を押し上げてしげしげとこちらを見たウィルコフは、感心したように頷いた。とりあえず頭を下げて、促されるままに椅子に座る。四つ並んだ丸椅子には、お手製なのか手編みのカバーが掛けてあった。
レニのラビットホールとはまた違ったその巣穴は、さまざまな編み物で彩られている。はるか昔に遊びに行った祖母の家を思い出しながら出された茶に手を付けた。
「それで、用件は?」
「そうそう。実はですね、ダリアの恋人が小人に連れ去られちゃったんですよ。僕たちの腰ぐらいの大きさの」
「なんと!」
「ラビットホールに入って来た方法も謎だし、どこへ行ったのかもまったく見当が付かない。あれは何ですか?」
「なるほど………」
神妙な面持ちで考え込んだウィルコフはそのまま暫く黙っていた。あまりにも長い熟考だったので、もしやこの老人は眠ったのではないか、と心配になってきた頃に勢いよく顔を上げる。
「思い出した、地下世界じゃ!」
「地下世界?そういえば、そんなこと言ってたね」
こちらを見るレニに頷き返す。
「ああ。小人は精霊王を迎えに来たと言ってヒューイを連れて行った。地下世界へ案内すると……」
「うーむ、そうなるとワシら獣人にはちと厳しいのう。なんと言っても地下世界は獣人を受け入れない」
「なんとか入る方法はありませんか?」
「無いわけではないが…」
渋るウィルコフをせっつくと、レニと自分の方を見ながら彼は言いにくそうに口を開いた。
「それなりの犠牲が伴う。覚悟はあるのか?」
「……あります。お願いだ、教えてください」
「満月の夜に地下世界への入り口は開く。場所は柊の葉っぱが教えてくれるだろう」
「満月の…夜……?」
「ダメだ!ダリア、だって君は、」
「問題ない。柊の葉はどうやって場所を教える?」
聞いたところによると、柊の葉は地下世界の入り口を見つけると共鳴して鈍く光るらしい。にわかに信じがたい話だけれど、長く生きた男の話を疑うわけにもいかず、信じてみることにした。いずれにせよ、他に頼れる人も居ない。
地下世界の入り口は一つだけではなく、いくつか存在するようで、あとは見つけられる範囲内に入り口が表れることを願うばかりだ。
ヒューイに会える。
ただその希望に縋るように、目を閉じた。
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