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40.ラビットホール◆ダリア視点
しおりを挟む「んん~~攫われちゃったね」
ぴょんぴょん跳ねながら割れた扉の木片を集めて回るレニを見る。居なくなってしまったヒューイは、どういうわけか匂いを辿ることすら出来ない。
「小人なのか?」
「さぁね。僕も初めて見たよ」
「ヒューイが連れて行かれた……っくそ!」
行き場のない怒りを拳に込めても、どうにもならない。
掃除に奔走していた兎は、ようやく片付け終わったのか大きなゴミ服を片手に戻って来た。扉のことを謝ると「らしくない」と大袈裟に嘆きながら首を振る。
「ダリア、たかが人間の男だよ」
「……どういう意味だ?」
「居なくなったらまた新しい子を選んだら良い。どうせ数ヶ月前までは居なかったんだ。元の生活に戻ったと思えば良いじゃないか」
「諦めろって言うのか?」
「危険を冒す必要はないって言ってるんだ。君はもっと寡黙で冷静な狼だったはずだよ。ヒューくんに会ってからなんか変だ」
やれやれと呆れるレニを前に、渇いた声で笑った。
「俺は変わったんじゃない。本当の自分に戻ったんだ」
「本当の自分?」
「長い間…一人で居ることに慣れていた。他人と関わるのは面倒で、鬱陶しかった。ましてや人間なんて浅はかで馬鹿な生き物だと思っていたよ」
そうだ。ヒューイに出会う前の自分は人間そのものを嫌っていた。同じ種族同士で争い、騙し合い、蔑み合う、愚かな者たち。自然から奪うばかりで、与えることは決してない。
そのくせ、彼らは獣人を亜種として分類し、下等生物と見做すのだ。そうやって自分たちの優位性を確かめたかったのだろう。プライドと偏見にまみれた人間なんて心底汚いと思っていた。
ヒューイに出会う前までは。
「アイツは違うよ。人間だけど、あたたかいんだ」
「ダリア……」
「俺の目を見て話をしてくれる。狼人間じゃなくて、俺という存在を認めてくれる。満月で不安定な時期だって、逃げずに受け止めてくれたんだ」
「でも…もう彼は、」
「また同じように思える相手がいつか現れるのか?俺は、これから何年待てば良い……?」
レニはもう何も言わなかった。
ただ、黙って聞いている。
「俺はもう十分一人だった……やっと、やっと出会えたんだ」
運命なんてものは、死や災いを恐れる人間が都合良く使う言葉だと思っていた。すべては既に決まっていて、自分たちはただ演者としてそのレールの上を歩くだけだと。
だけど、今こうして離れたことが運命ならば、そんなもの全力で否定したい。レールがあるなら踏み潰してしまいたい。そしてその後で、ヒューイに繋がる道だけを残せば良い。
「……はぁ。僕ってお人好しだから、そういう話されちゃうと乗らざるを得ないよ」
「レニ……?」
「小人やら何やらのおとぎ系に詳しい師匠が居るから、案内してあげる。でも、この貸しは高くつくよ?」
「悪い、助かる。お前は最高だよ」
「うん。知ってる」
ニコッと笑う兎と拳をぶつけ合う。
白み始める空の下へ出て、師匠と呼ばれる男の元へ向かった。
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