上 下
29 / 52

29.完食の朝

しおりを挟む


 翌朝、あまりの腰の痛みに僕は起き上がれなかった。

 少し肌寒い部屋の空気に震えて、目を何度か瞬かせながら毛布の中に身体を沈める。ダリアはやっぱり今日も既に行動を開始しているようで隣には居ない。

 どういうわけか、昨日の僕たちはタガが外れたように互いを求めた。というよりも正しくはダリアが僕を何度も抱いてくれたと言った方が良いかもしれない。

 いつもは一度果てたら暫くはぼんやりとしたまどろみの中にあった僕の意識は、昨日は何故かずっと快楽の中を彷徨っていた。イってもイっても終わらないその甘い刺激は、地獄のような天国で、僕は自分の身体が本当に恐ろしくなった。

 事実、少し泣いていたかもしれない。

 情けないことこの上ないけれど、狼はめそめそと感情を垂れ流す僕を優しく包み込んで「悪いことじゃなくて何度も愛し合えるから良いことだ」なんて言っていた。言われた言葉の意味はよく分からなかったものの、ベッドから移動してシャワーを浴びながら何度目かの性交が始まった時、僕は身をもってその意味を理解した。

 焼けたように喉がヒリヒリする。
 何時間も川で泳いだみたいな倦怠感もすごい。

 発声練習でもしようかと喉に手を当てて考えていたら、寝室の扉が開いてダリアが入って来た。


「おはよう。今日はもう少しゆっくりしてくれ」
「………うん、ごめん」
「謝るのは俺の方だ。いつもお前に無理をさせてしまう」
「無理なんかじゃないよ、僕が望んだんだ」
「ヒューイ……」

 二、三歩近付いてベッドに腰掛けると、ダリアはとても自然な動きで僕にキスをした。まるで恋人同士がするみたいな、暗黙の了解のもとに行われるキス。唇が離れる最後の瞬間まで、僕は綺麗な狼から目が離せなかった。

 いつも優しいダリアだけど、時には乱暴に扱われても良い。彼の気が立っている時、何かに当たらないと気持ちの整理が付かない時、どうしようもなく寂しい時に僕のことを使ってほしかった。この押し付けに近いお節介でダリアの気持ちが少しでも救われるなら、僕はそれで良い。


「ダリア、」
「ん?」
「嬉しかった。僕はもっとダリアの役に立ちたい」
「もう十分だよ。本当は昨日、お前にあんなことしたくなかった。怖がらせるって分かっていたし、傷付けるなんて…」

 言いながら悲しそうな目が僕の身体に向けられる。
 赤い花がたくさん咲いた薄い胸を、僕は両手で隠した。シャワーを浴びる際に脱がされたのか服を着ていない。眠気と疲れで昨日の終焉について覚えていないのだけど、それはきっとダリアも同じなんじゃないだろうか。

「大丈夫。それより、服を借りても良い?このままだと風邪を引いちゃいそうだよ」
「そうだな、ごめん。そういえばヒューイ、」

 パッと伸びて来た手が僕の頬に触れた。

「最近やけに赤いな。水が合ってないのかもしれない」
「……ん、どうだろう。乾燥だと思うけどね」
「こんなに赤くなるものか?」
「僕は肌が弱いから。心配しすぎだよ」

 ゆるく笑ってダリアの手を退ける。
 内心ひどく動揺していた。いつの日か兎の獣人のレニに言われた言葉を思い出す。僕にとっての正解が、ダリアにとっての正解であるとは限らない。そんなの分かってる。

 だけど、僕はこの時も自分のためにひた隠しにした。
 そのことでダリアが後にどれだけ傷付くかも知らずに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

処理中です...