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23.千夜一夜
しおりを挟む「………恋人?」
真っ暗な部屋の中で、僕の声が空気を揺らす。
なんだか夢の中みたいに響いた。
「え、なんで、だってダリアは僕じゃなくてもいくらでも選べるでしょう?今日だって可愛い女の子に、」
「お前が良い。ヒューイが良いんだよ」
「でも僕は男で……!」
「言ったよな?男とか女とか関係ない。それに何か問題があるか?キスだって出来るし、繋がることも出来る」
そう言いながら撫でられた僕の唇は、ジンジンと痺れて馬鹿になったみたいだ。僕はダリアの腕の中でおかしくなってしまう自分のことを思い出して、胸が縮むのを感じた。
それを知ってかダリアは僕の頬に手を添えて浅く口付ける。親鳥が雛に餌を与えるような軽いキスは、回数を重ねるうちにドロドロに溶けるキスに変わった。
差し込まれた舌が苦しい。狼の長い舌は僕の口内を好き勝手に弄んで、溢れた唾液は口の端から流れ落ちた。
僕は今どんな顔をしているんだろう。
きっと、僕を見下ろすダリアだけが答えを知ってる。
「ヒューイ、好きだ」
迷いのない真っ直ぐな瞳。
月が映し出す綺麗な顔は、張り詰めたような表情で僕を見ている。ほしい言葉をくれるこの素直な男を、僕は心底憎いと思った。ダリアが僕に向けるストレートな愛は、僕を喜ばせて悲しませる。
僕は、ダリアと居ると未来を求めてしまう。
もっと生きたいと願ってしまう。
「教えてくれ、ヒューイはどう?」
「……っん…僕は、」
答えを待たずにどんどんキスが降って来る。ダリアは強くて優しくて、びっくりするぐらい甘い。僕はもう降参するしかないのだと思う。こんなの堪えられない。
「好き、ダリアのこと好きだよ……ごめん」
「謝らないで、嬉しいから」
「ダリア……ほんとに僕で良いの?」
恐る恐る発した質問の答えは、強く抱き締められて聞こえなかった。この期に及んで僕はまだ意気地なしで、本当にこれが現実だなんて信じられなかったけれど、せめて今だけでもダリアがどこにも行かないように背中に手を回した。
恐ろしい狼を愛してしまった。
苦い後悔を打ち消すように僕は自分から唇を重ねる。
それから二人で、お互いの育った環境について話したりした。僕は祖母や父から聞いた母の話をして、会ったらどうしたいかなんて夢物語を一生懸命に語った。
子供みたいな僕の夢を、ダリアは静かに相槌を打ちながら聞いてくれて、時折「つまらないのではないか?」と心配になって見上げる僕に優しい笑みを返した。眠気は不思議といつまで経っても襲って来なかった。
僕が話し終えると、ダリアは少しだけ自分の家族の話をした。幼い頃の思い出や、彼らを取り囲む森の変化、人間との関わりについて。僕は、村人たちが細々と続けている生贄の制度がただの迷信に過ぎないことを知って、なんとも言えない気持ちになった。
僕たち人間はきっと、自分で思うよりも愚かだ。
こんな無意味なことを何百年も続けて来たなんて。
朝日が昇る頃、僕はダリアに包まれて眠りに落ちた。初めて出来た恋人の腕の中は、随分と温かくて安心した。
◆お知らせ
ストックが切れそうなので一日一回更新に変更します。
朝か夜に更新するのでゆるゆる宜しくお願いいたします。
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