15 / 52
15.赤ずきんの杞憂
しおりを挟む来るべき夜をどう過ごすべきか。
熱いシャワーを身体に浴びながら、思考はどうしても今夜のことに囚われる。ダリアはまた僕を抱くのだろうか。べつに嫌ではないけれど、どうしてこんな面白みのない身体を?
(………人恋しくて仕方なく…?)
ボタボタと水が流れ落ちる中、僕は自分の肢体を観察する。ストンとした胸に子供のように平らな腹、その下に付いた男の象徴も申し訳程度のもので、とてもじゃないけど自慢できるような状態ではない。
手を伸ばして自分の尻に触れてみる。
小さな後孔は指一本さえ入らないのではないかと疑うサイズ感だ。ダリアは昨日、こんな場所に彼のものを挿れていた。あの太くて熱く脈打つ凶器のような雄を。
さわさわと穴の周囲を撫でても、気持ち良さのようなものは感じず、僕は少しガッカリする。あの溶けるような感じを自分で体験出来れば良いのに。
ダリアの手はもっと大きい。
指だってもっと太くて、男らしくて。
(こんなんじゃないよ………)
僕が女の子だったら、きっとダリアのことを好きになるのだろう。いいや、誰だって好きになるはずだ。村に居る若い娘たちが彼を見たら、顔を赤らめて成りを整えるに決まってる。
狼がこんな姿をしていると知ったら、皆は我先にと「赤ずきん」という不名誉な生贄に立候補したかもしれない。
シャワーを終えて寝室に向かうと、ダリアはもうすでに毛布を被って丸まっていた。起こさないように隣に滑り込んで、寝息を立てる綺麗な顔を眺める。
僕は、その優越感に頭がクラクラした。
今、この美しい狼の寝顔を好きなだけ堪能して、共に眠りに落ちる権利を僕だけが持っている。それは実際問題この部屋には僕と彼しか居ないからで、彼の恋人に成る権利といった意味ではない。だけど、僕は幸せだった。
ダリアは僕と居ると幸せなんて言うけど、きっと僕が感じている気持ちはそれ以上だと思う。今まで誰にも必要とされて来なかった人間にとって、初めて与えられる優しさは中毒的な甘さを持っていた。
僕は、いつまでダリアと一緒に居られるのだろう。
神様は都合よく僕の寿命を延ばしてくれないだろうか?
「………ダリア、」
名前を呼ぶと閉じた瞼が少しだけ震えた。
この強く美しい獣のことをもっと知りたい。僕は、僕の命が続く限り、ダリアのことを頭に刻んで残していきたい。そうすればきっと、ずっと同じ景色を見続けることは出来なくても、抱えた記憶だけで満たされると思うから。
耳を澄ませば聞こえるかすかな息遣いに安心しながら、僕は深い眠りに落ちていった。
◆ご挨拶とおねがい
見つけてお読みいただきありがとうございます。
本作はBL大賞に参加中です。
もし可能であればポチッと投票いただけますと作者の励みになります。どうぞ宜しくお願いいたします。
年齢制限が関係するシーンが含まれるお話は朝更新しないように決めているので、朝更新がなければそういうことだと思っていただけますと幸いです(変なこだわりですみません……)
50
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

【完結】僕の好きな旦那様
ビーバー父さん
BL
生まれ変わって、旦那様を助けるよ。
いつ死んでもおかしくない状態の子猫を気まぐれに助けたザクロの為に、
その命を差し出したテイトが生まれ変わって大好きなザクロの為にまた生きる話。
風の精霊がテイトを助け、体傷だらけでも頑張ってるテイトが、幸せになる話です。
異世界だと思って下さい。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる