【完結】生贄赤ずきんは森の中で狼に溺愛される

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
12 / 52

12.器用な狼の朝ごはん

しおりを挟む


 朝目覚めると、ダリアはもう部屋に居なかった。

 僕は半目を開けて天井を見つめる。
 身体がなんだか重たくて、その原因を思い出そうと記憶を辿ったところで僕は昨日の夜のことを思い出した。あんな経験をした後で「狼の仲間内ではあれは挨拶と同じスキンシップだ」と言われたら流石に悲しい。

 だけど、たとえダリアがそう言ったところで、僕はきっと曖昧に笑って「そうなんだ」と流すんだろう。そういう反応しか出来ない自分を情けなく思う。

(入り込み過ぎないようにしないと……)

 この森の王であるダリアは、僕よりきっと色々なものを持っている。それは恵まれた体格とか整った顔立ちといった目に見えるものから、知能や運動能力などパッと見は分からないものまで様々だ。

 彼が僕をそばに置いてくれていることが既に奇跡に近い。生贄として選ばれたことはつまり、その村で一番要らない人間だったという意味で。そんな役立たずを殺さずに生かしてごはんまで与えてくれるなんて、気まぐれでも有難いこと。

 僕は、ダリアに望みすぎてはいけない。
 いつ彼が心変わりしても良いように。


「ヒューイ、おはよう」

 良い匂いにつられてキッチンへ続くドアを開けると、エプロンを着けたダリアがフライパンを振っていた。挨拶を返しながら中を覗くと、目玉焼きが二つ並んでいる。端では親指ほどの大きさのソーセージが炒められていた。

「美味しそう……」
「嫌いなものないか?」
「うん。なんでも食べます」
「良かった。お前は痩せてるからもっと食べろ」
「ふふっ、ダリアと比べたらね」

 笑った僕をダリアはジッと見つめた後、フライパンをコンロの上に戻して火を消した。その場で見守る僕に向き直って、ダリアの両腕が背中に回る。

 僕は昨日のことを思い出して固まった。

「無理させてごめん、痛みは?」
「………ん…大丈夫、」
「お前はいっつも大丈夫って言うから心配だ。つらかったら言ってくれ。いきなり嫌いになるのはダメだ」
「そんなこと、無いから……」

 恥ずかしさで出て来る声はひどく小さい。
 少しの間、子供を安心させるように背中を撫でると、ダリアは「分かったよ」と言って身体を離した。僕は失った体温を少し寂しく思ってしまう。

 二人で席に着いて、ダリアから一つ一つの料理の説明を受けた。器用な狼は料理上手らしく、胡桃などの木の実を砕いて作ったソースを掛けると目玉焼きは食べたことのない御馳走に変わった。そのままでも美味しいけれど、僕はこの少し酸味のある甘いソースがすごく気に入った。

「今日は外を歩いてみよう」
「薪を集めるの?」
「それもあるし、この辺りの案内をしたい」

 何かあった時に一人だと迷うだろう、と言われて素直に頷く。僕が一人で森を歩くことなんて自分の意思では起こり得ないと思うけれど、確かに知らないよりは知っておいた方が良い。

 薄く切られたパンを二枚食べて、お腹がいっぱいになったところで昨日と同じく洗い物は僕がやると申し出た。役立たずの同居人だと思われたくないので、洗濯もやってみたいと言ったところ、ダリアは「そんなに張り切らなくて良い」と笑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

処理中です...