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10.初めて知ること ※
しおりを挟む「……っん…あ、」
十八年間、誰にも触られたことがないプライベートゾーンに今、自分ではない他人の手が添えられている。
まず先行するのは処理しきれない羞恥心、続いて不意の衝撃に対するショック、そして最後に沸々と込み上げるのは甘い期待。僕は、僕に欲情するダリアがどういった行動を取るのか知りたいと思った。
大きな手は硬くなった僕の一部をゆるく根本から扱く。ゆっくりゆっくりと、我慢比べのような速度で。それはまるで僕の忍耐を試すみたいで、僕は小さな快感が肌の上を駆け上がってくるのを感じた。
「ヒューイ…気持ちいいのか?」
「あ、ん……っ!」
「先っぽから汁出てる。自分でする時はどうやってる?」
「んぅ、したこと、ない……っはぁ」
「嘘吐き。そんなヤツ居るわけないだろ」
本当だった。
もちろん自分で自分を慰めるという行為があることは知っていたけれど、何かの本でそうした行為は中毒性があると聞いていたし、恥ずかしいけれど朝起きて粗相をしでかしていることはあったので排出が出来ていないわけではない。
それで問題はなかったし、困ったこともなかった。そういうわけで、僕は自分は一般的な男たちよりも淡白で、そうした行為に執着がないタイプなのだと思っていたのだ。
そう。今日、この時までは。
「……あっ、ダリア!待って何か、何かが…!」
「良いよ。一回出そう」
狼は僕の耳元でそう言って、上下する速度を上げつつ、空いた左手でシャツの上から僕の胸に触れた。器用にボタンを外したかと思うと、高い体温を持った手が小さな胸の突起を捕まえる。
「ひぁ、あ、何するん……っあん、やだ、」
「ヒューイは乳首も弱いんだな。これはどう?」
「や、先だけ押さないで、変なのきちゃ…!」
くりくりと弄られた先端を急に潰されて、僕は頭が真っ白になった。溜まりに溜まっていた熱が放出されるのを感じる。吐精したのだと分かって、恥と情けなさで涙が滲んだ。
ダリアの顔が見れない。
まさかこんなことになるなんて。
ベタつく太腿を擦り合わせて、なんとか座り込む。月が隠れてくれていて良かったと思った。惨めも良いところ。胸を触られて、女の子みたいな声で啼いた。挙げ句の果てに気持ち良くなって、ダリアの手の中に吐き出してしまった。
「ごめん…ごめんなさい……本当に僕、初めてで。自分でしたことなくって、こんなすぐ出ちゃって汚しちゃっ、」
言い終わらないうちに強い力で抱きすくめられた。中途半端に開いた口をダリアが塞ぐ。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を押さえて、ダリアは何度も僕に口付けた。
「ヒューイ、謝るな」
「で、でも……!」
「気持ち良くなるのは悪いことじゃない。お前が頭飛ぶぐらいの快感で精子撒き散らすのは最高だ」
「そんな言い方、」
「俺にとっては最高だよ。それだけ良かったんだろ?」
優しく頭を撫でられながら聞かれて、僕はこくんと頷く。
「もっと色んな顔を見せてくれ。不安で心配そうヒューイだけじゃなくて、気持ち良い顔も、恥ずかしがる顔も、どうしようもなく欲しくて堪らない顔も、全部見たい」
「………っん、ダリア、」
深いキスに応えながら、僕はやっぱり涙が止まらなかった。どうしたって感情はボロボロと喉元を通り過ぎて出て行ってしまう。もう、止め方も分からない。
お互いのことを大して知りもしないのに。
生贄とそれを受け取る捕食者の関係なのに。
ダリアはあまりにも、僕の人生の答えだった。
僕は、十八年間抱えてきた、ぼんやりとした満たされない心を埋めてくれる唯一つだけのピースを、見つけた気がした。
「ヒューイ、もっとお前のことを知りたい」
僕はダリアの首に腕を回してシーツの海に沈んだ。
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