【完結】生贄赤ずきんは森の中で狼に溺愛される

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
9 / 52

09.狼と同衾

しおりを挟む

 はちみつの香りがする石鹸で身体を洗って、身も心も綺麗になった気分で僕はソファで本を読んでいた。ダリアは少し前にお風呂へ行ったし、まだ眠気は降りて来ない。そして、この家のことをよく分かっていない以上、勝手にベッドへ入るのも気が引けた。

 つい昨日まで他人だった男の家でくつろいでいる。

 それはとても不思議なことで、もっと警戒心を持つべきなのではないかと疑う声も自分の中にはある。だけど、ダリアから向けられる手放しの愛は、それが恋愛だろうが友情だろうが、はたまた単に生贄として赴かされた異種族の人間への憐れみを含んだものであろうが、僕の心を温めるには十分だった。


「おっと……まだ起きてたか」

 声がした方を振り向くと、髪を拭きながらダリアが部屋の入り口に立っていた。

 彼から借りたダボっとしたシャツと同じく丈の合わないズボンを履いている僕とは違い、ダリアは上半身半裸に下も下着同然の姿だ。引き締まった肉体を見て、同性なのに僕は目を逸らした。自分の貧相な身体が情けなく思ったのも原因ではある。

「寝ようか?続きは明日読めるから、安心しろ」
「はい。あ、僕はどこで眠れば……」
「ん?ベッドだろう」

 何を当たり前のことを、と言わんばかりの顔で指差す先には窓際にデーンと置かれた大きなベッドがある。

 しかし、部屋にはそれ以外に寝具はない。というかこの家には他に僕たちが眠るために使えるような場所はない。リビングにあるソファは小柄な僕でも横になったら足先が出るサイズ感だったし、床に寝床を用意するようなスペースも無さそうだ。

「えっと……じゃあ、ダリアさんは?」
「ダリアでいいよ。俺もここで寝るが?」

 薄々予想していた答えも、本人の口から言葉として発せられるとやはり驚愕した。たしかにサイズ的には問題ないだろう。クイーンサイズぐらいはあるベッドは、きっと僕とダリアの二人を安眠へと導いてくれるはずだ。

 問題は、彼曰く「一線を超えた」僕らが寝床を共にするのがどうかという話。冗談だという可能性もあるけれど、さすがに同じベッドに入るとなると意識してしまう。

 ダリアはなんてことない顔でタオルをカゴに放り投げてベッドに腰掛けた。少女のように戸惑いを見せるのも変なので、慌てて僕も反対側に回ってみる。

(し…心臓の音が気になる……!)

 横たわったは良いものの、顔を見合わせて眠るわけにもいかないので、とりあえず僕は窓の方を向いた。後ろから「電気を消すぞ」という声が聞こえて、僕が返事をするとダリアは少し起き上がってパチンと何処かにあるスイッチを切る。

 部屋は夜の闇に包まれた。

 心地良い眠気どころかバックンバックンと高鳴る心臓を治めるために、僕はつまらない歴史の授業で習った内容を思い出そうとする。

 その昔、獣人と人間が一緒に暮らしていた時代があったようだけど、彼らは種族を超えて愛し合ったりしていたのだろうか。それならば何故今は混血の子が残っていないのだろう。僕とダリアは男同士だから、子を残すことは出来ないのだけれど……

 そこまで考えて、自分の浮かれた思考回路に驚いた。
 ダリアとの未来を考えるなんて先走り過ぎだ。

 窓の外に浮かぶ月に、濃い色をした雲が掛かった。わずかに差し込んでいたぼんやりした光が途切れる。完全に暗くなってしまった部屋の中で、僕は突然怖くなった。

 ダリアがもしも僕の前で猫を被っていたら?
 本当は恐ろしい人喰い狼だったら?
 眠っている間に仲間の狼に売られたら?


 恐ろしい妄想が頭の中で弾けて、別の意味でドキドキし始めた僕の太腿のあたりに、何か硬いものが触れた。咄嗟に「拳銃ではないか?」と身構える。しかし、それは適度な温度を持っていて、硬い芯の外側は柔い皮で覆われていた。

(………これって……あれ?)

 その正体に気付いた時、僕は耳元でダリアの息遣いを感じた。荒い呼吸に合わせるようにグイッと押し付けられるものに、このまま眠ったフリを続けるべきなのか迷う。

 そして何より最も困ったのは、どういうわけか僕自身もまたその熱に当てられて臨戦状態に入っていることだった。僕はダリアに気付かれないように、そっと片手で股間を隠す。恥ずかしくて死んでしまいそうだ。


「ヒューイ、ごめん……少しだけ良い?」
「え?」

 聞き返した瞬間、後ろから伸びて来たダリアの手が僕のズボンの中へ入って来た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

【完結】僕の好きな旦那様

ビーバー父さん
BL
生まれ変わって、旦那様を助けるよ。 いつ死んでもおかしくない状態の子猫を気まぐれに助けたザクロの為に、 その命を差し出したテイトが生まれ変わって大好きなザクロの為にまた生きる話。 風の精霊がテイトを助け、体傷だらけでも頑張ってるテイトが、幸せになる話です。 異世界だと思って下さい。

処理中です...