【完結】生贄赤ずきんは森の中で狼に溺愛される

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
2 / 52

02.赤ずきんは生贄

しおりを挟む


 いつからなのか知らない。
 だけど、物心がついた時からその風習はあった。

 五年に一度、隣接する黒い森に生贄を捧げる。
 それはその森を支配する大きな狼に対する献上品のようなもので、村人が「赤ずきん」と呼ばれる生贄を差し出すことで村の平和は保障されるらしい。

 らしい、というのは今まで一度も村人が獰猛な狼の姿を見たことがないから。ただ夜中に稀に聞こえる耳を塞ぎたくなるような鳴き声は、僕たちを恐怖のどん底に落とした。怒りを声に乗せて木々を揺らすようで。

 子供達は皆、黒い森へは近付かない。
 狼に捕まったら最後、血の一滴さえ残らず食されてしまう。親たちはそうやって恐ろしい狼の存在を語って自分の子供を厳しく囲い込んでいた。


「ヒューイ、今回はお前だそうだ」

 父が僕にそう言い渡したとき、僕は何のことか始めは分からなかった。ただ、読んでいた本を取り上げられたことにショックを受けて、細い身体を抱いて眠りに着いた。

 何かがおかしい、と気付いたのは翌朝のこと。

 目覚めるとベッドの周りをたくさんの白い服を着た人間が囲んでいた。目深に被ったフードの下で何やらブツブツと呟きながら僕に赤いローブを着せる。汚れ切ったその重たい布の塊はところどころ変色していて、僕は直感でそれが血なのではないかと思った。


「なにをするんですか!離して……!」

 精一杯の抵抗も虚しく、僕はまだ暗い空の下に引き摺り出された。家を出る時に見えたのは、金貨を受け取る父の笑顔。

 今回は自分だ、と告げた父の言葉の意味を理解した。
 僕は今から「赤ずきん」として狼へ捧げられるのだ。この真っ赤なローブが何よりの印。そして、父はきっと自分から僕を村人へ売ったのだろう。

 病弱で気弱、役立たずの息子。
 結婚して跡継ぎも残せなければ、働いて金を生み出すわけではない。村の医師の見解では二十歳まで持たないと言われたこの命を、これ以上養うのは無駄だと。

 それならば、せめて最後に金に換えてやろうと。
 きっと父はそう企んだのだ。


「……赤ずきんは!女が選ばれるはずです!僕が行ったところできっと殺されて終わる!」
「大丈夫だヒューイ、お前の身体は女のようにか細い」

 僕の手を引く顔の見えない男は、そう言って下衆な笑いを見せた。言い返すことは出来ない。ほとんどの時間を家で過ごしていた僕は、村のどの男よりも薄い胸板で、下手をすれば女たちよりも不健康に色白だった。

「しかし、もしも狼が怒って村を襲ったら!」
「そうならぬようにお前が行くのだ!」
「………っ、」
「獰猛な野獣の気を少しでも引けるように努力しろ。今年は年頃の娘は皆嫁ぎ先が決まっている。森の王がお怒りになったら、まだ幼い女児から選ぶことになる」
「やめてください、そんなこと……!」
「ならばお前が射止めてみよ。生きて帰ったら祝杯を上げてやる。そこまでお前の弱い心臓が持つか分からんがな」

 僕はもう何も言わなかった。

 誰かが行かなければいけない。
 僕が行かなければ、幼い子供がその生贄として送り込まれる。五年耐えることが出来れば新しい生贄と交代するのだろうか?

 しかし、今まで帰って来た生贄の話など聞いたことがなかった。ただ、いつも村人が忘れた頃に、その赤いローブが森の中に落ちているだけで。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...