3 / 26
前編 関係者たちの証言
03 ポール・ウェリントンによる証言
しおりを挟むフィルガルド・デ・アルトンについて教えろ?
それは僕ほど適任は居ないだろうな。なんて言ったって僕と彼はアカデミーの初等部からの友人だ。アイツときたら見た目の良さと育ちの良さで、昔から女は入れ食い状態だった。
いや、公爵家の息子としてこういう言い方は良くない。上品な表現をすれば「お相手に不自由はしなかった」とでも言えば良いか?何のお相手かは、自分で勝手に考えてほしい。
周りが適当な恋人を見つけて婚約からの結婚という階段を登る中、僕とフィルガルドだけはズルズルと若い頃の遊びを引き摺っていた。僕は次男で家を継ぐ必要もなかったから良いが、フィルの方はそうでもなかったようだ。何回か愚痴を吐いているのを見たことがあるんだ、彼の父である国王のことでね。
基本的に社交的で令嬢たちには良い顔をして見せる男だったから、彼の周りにはいつも女が居た。歩くハーレムなんて呼ばれているのも見たことがあるが、なかなかセンスの良い表現だと思う。
「はぁ?夕飯の誘いを断った……?」
僕は大口を開けて執事に聞き返した。
白い眉を寄せて年老いた男は頷き返す。
「はい。坊っちゃまのお手紙は届いたようですが、殿下は忙しいため対応出来ないと……」
「忙しいわけがあるか!フィルは婚約破棄をして晴れて自由人じゃないか。いったい何のためにあの芋女をお払い箱にしたんだよ」
「私めには分かりませんが、まだ恋人が去られたばかりなので傷心なのではないかと思います」
「お前はいったいどっちの気持ちを語っているんだ!?フィルはやっと肩の荷を下ろしたんだぞ」
僕は憤る気持ちを抑えるためにグイッとレモネードを飲んだ。これはアルコールを少し混ぜるとほろ酔いになって抜群なんだが、今日は午後から父と出掛ける予定があるので控えていた。
断られるなんて想像もしなかった。
なにせ、やっと独り身に戻れたのだ。
盛大に飲み明かして、街へ繰り出した後はまた適当な女を引っ掛けて遊び惚けようと考えていたのに。これは独身に戻った彼が受けるべき当然の恩恵であって、僕はその手助けをする立場なのだと。
頭の中でゆるりと一人の女の影が浮かぶ。
ララ・ディアモンテという地味な女。
自分と同様に特定の存在に執着を見せなかったフィルガルドが婚約すると言い出したのは、今年に入ってすぐのことだ。まだ寒さの真っ只中という時期、何故か僕らは王宮の中庭で散歩をしていた。あれは確かフィルからの誘いだったと記憶している。
見せてもらった写真には、取り立てて特徴のない女が映っていて、僕は思わず絶句した。数々の派手な女たちと噂を流してきた王子が最後に選んだのが、こんなちっぽけな女なのかと。
何が良いんだ、と聞こうとした瞬間にフィルガルドはスッと写真を仕舞い込んでしまったので、結局のところ「よくある政略結婚か何かだろう」と自分に言い聞かせて納得した。そうでもしないと、突然の裏切り行為のように感じたから。
さらに悪いことに、これはきっと見間違いであるはずなんだが、フィルは手帳に写真を収める際に少しだけ笑っていた気がした。そんなはずはないし、おそらく僕の勘違いだと思うが。
「お前はこっち側の人間だろう………」
ぽそっと呟いた声に隣で寝転ぶ女は首を傾げる。
思い返すのは、二週間前の自身の誕生日会でのこと。遊び仲間の令嬢たちが揃ったから、婚約者を連れてフラフラと歩いていたフィルガルドにも声を掛けた。酒が回った女の一人がフィルに抱き付いたような気がするけれど、これまた記憶があやふやだ。
分かっているのは、そのパーティーから婚約破棄までの間、一度もフィルが僕の電話に出なかったこと。そして、何の相談もなく旧友が婚約破棄をしたこと。ただそれだけだった。
1,745
お気に入りに追加
2,675
あなたにおすすめの小説
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています


天然と言えば何でも許されると思っていませんか
今川幸乃
恋愛
ソフィアの婚約者、アルバートはクラスの天然女子セラフィナのことばかり気にしている。
アルバートはいつも転んだセラフィナを助けたり宿題を忘れたら見せてあげたりとセラフィナのために行動していた。
ソフィアがそれとなくやめて欲しいと言っても、「困っているクラスメイトを助けるのは当然だ」と言って聞かず、挙句「そんなことを言うなんてがっかりだ」などと言い出す。
あまり言い過ぎると自分が悪女のようになってしまうと思ったソフィアはずっともやもやを抱えていたが、同じくクラスメイトのマクシミリアンという男子が相談に乗ってくれる。
そんな時、ソフィアはたまたまセラフィナの天然が擬態であることを発見してしまい、マクシミリアンとともにそれを指摘するが……
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)


口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」
window
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」
アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。
「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」
アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。
気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる