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第三章 テオドルス・サリバン
69.頸◆テオドルス視点 ※
しおりを挟む近々結婚を挙げる隣国の王女から連絡が入った、と報告を受けたのはジュディの部屋に入った直後だった。
しかし、いざ確認してみるとそれは誤報で、電話した手前早々に切り上げることも出来ずに取り留めのない話をダラダラと聞く羽目になった。
もう眠っているだろうか、と再度側妃に与えられた部屋へと向かう。ちょうど風呂に入った後のようで、清潔な夜着に着替えたジュディ・マックイーンはドライヤーで髪を乾かしていた。淡く染まった頬は桃を彷彿とさせる。
「すまない…戻るのが随分と遅くなってしまった」
「いいえ。先にお風呂をいただきました」
穏やかに微笑むジュディを見て、思わず唾を呑んだ。
いつものように手を伸ばすと、どういうわけかジュディは少しだけ身を引いた。虚しく空を掴んだ手と戸惑ったような表情を浮かべる彼女を交互に見つめた。
「どうしたんだ?具合が悪いのか?」
「あ…違います、ごめんなさい……」
「こっちへ来て顔をよく見せてみろ」
大人しく歩み寄ったジュディの顔を観察する。
特に変わったところは無さそうだ。
風呂上がりの良い香りが鼻腔をくすぐって、柔らかい肌の感触を確かめるために両腕で抱き締めてみた。極上だ。長電話の疲れを癒す、自分専用の高級娼婦。
幾分か心も落ち着いたので、今日はもう遅いし彼女を解放してやろうと顔を離した時だった。
(………なんだこれは?)
俯く首の後ろ側に、ひっそりと赤い痣が出来ている。こんな場所に自分は痕を残しただろうか、と訝しみながら髪を掻き分けると、逃げるようにジュディは距離を取った。
それは明らかな拒否。
こんな態度を彼女が見せたのは初めてのことだった。
瞬間、いくつかの可能性が頭の中を巡る。
自分が居ない間に彼女は風呂へ入っていたと言う。いつもなら利口なジュディは主人が戻るのを待っていたはずだ。それこそが彼女の聡明さの表れであり、自分が好いている従順な女の印だった。
「ジュディ……誰か、この部屋に入ったか?」
顔を上げないままに首だけを振る。
どうやら返答のつもりらしい。
「質問を変えよう。俺が居ない間、何をしていた?」
「………考え事をしていました」
「何を考えていたんだ?」
「いろいろな…ことを、」
「君は、俺に嘘を吐いている」
ハッとしたようにジュディは顔を上げた。
その表情は何よりの肯定を示していた。この部屋に誰かが来たのだ。そして、大切にしているジュディに乱暴を働いた。しかし、では何故彼女は隠すのだろう?どうして庇うような真似をする?
いったい…誰が?
「不躾な質問を許してほしいんだが、」
「なんでしょう……?」
「君のことを恩師だと言っていたヴィンセント・アーガイルは、君にとって特別な生徒だったりするか?」
「………なにを…そんな…」
「ジュディ、君が側妃になることを嫌がっていた理由は…」
最後まで言い終わる前に、感情が極まって机の上の花瓶を壁に投げ付けた。
陶器の花瓶はバラバラに砕け散り、大きな音を立てて床に落下する。突然の出来事に、ジュディは大きな瞳に涙を浮かべていた。でも、もうそんなことはどうでも良い。
腹が立って仕方がない。
自分を騙して逢瀬を重ねていた二人の姿を想像する。間違いなくヴィンセントは此処へ来たのだ。そして、この側妃の部屋で彼女を抱いた。皇子である自分の目を掻い潜って。
とっくに諦めたものと思い込んでいただけに、ひどく腹立たしい。よもや本気で取り戻せると思っているのだろうか。たった一人で、三人の男を殺められると?
「ジュディ、後ろを向け。四つん這いになるんだ」
手を引いてベッドへ投げると諦めたように従った。
まだ濡れていないそこへ、勃ち上がった己を押し入れる。悲鳴のような嬌声を聞きながら、何度も何度も突いた。白い頸に浮き出た鬱血痕を舐め上げると締め付けはキツくなる。
分からせなければいけない。
彼女は自分の側妃で、何処へも逃げることなど出来ないのだと。
シーツを掴んで荒い息を繰り返す身体をぐるりとひっくり返す。泡立つ蜜口に再び挿入すると、二本の脚を掴んで持ち上げた。
「見ろ…ジュディ、お前を抱いている男は俺だ」
「………っああ!殿下…おやめください!」
「お前は俺の女になったんだ…!」
「いやっ…んん、あ、痛いっ……はあぁっ」
「ジュディ、っく……!」
胸の上に吐精すると、少し気持ちは晴れた。
ぐったりと横たわる彼女は起き上がらない。
へその辺りに手のひらを乗せると、ゆるんでいた身体が強張った。するすると手を滑らせて、その柔らかな肌の上で弧を描く。閉ざされていた茶色い瞳が不安そうにこちらを見た。
「そうだ、子を作ろう」
「……え?」
「正妃以外を孕ませてはいけないという法律はない。明日からさっそく子作りのための行為に移る。大丈夫だ、何もやることは変わらない。ただ、ここで受け止めるだけだ」
腹の上に口付けると、ジュディは勢いよく起き上がった。
「何をそんなに驚いているんだ?特別なことじゃない」
「………だめよ、だめ…だって、貴方は結婚を、」
「いいや、良いんだよ。なんてったって、君が愛するヴィンセント・アーガイルも皇帝の愛人が産んだ男なんだから」
ジュディの美しい双眼が驚いたように見開かれる。
その姿すらも美しくて、明日からの日々を思うと背筋がゾクゾクした。
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