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第三章 テオドルス・サリバン
63.罪深い女 ※
しおりを挟む側室と言うからには、何人か同じような立場の女性が居ると思っていたけれど、どうやら迎え入れられた側妃は私が一人目のようだった。女好きと名高い現皇帝の息子だから、きっと今後増えていくのだろうけど。
私は自分が身に付けたことのない、煌びやかなドレスを見下ろす。薄いけれど寒くはない柔らかな布地は腰からふんわりと膨らんでいて、波打つようなドレープが美しい。
「ジュディ…まだ起きていたのか、」
部屋に入ってきたテオドルスは、窓辺に立つ私の元まで歩み寄る。迷いなく伸びた手が後ろから回って私を抱き締めた。
「慣れない場所で不安も多いと思うが、何かあれば俺を頼ってくれ。君を出来るだけ一人にしないようにするから」
「……ありがとう、ございます」
出来れば私は一人で居たかった。
誰にも会わず、何も言葉を発さずに、ただ卵のように丸まってベッドの上で眠っていたかった。ヴィンセントが去ってからは、考え事をする時間を減らすために人と会ったり働いたりしていたけれど、もう彼と会うことがないのであれば、私はすべてを諦めて心を閉じていたい。
だけど、テオドルスはどうやら違う考えを持っているようで、一人にしないようにするという言葉の通り、腹の前にあった手はいつの間にか私の胸の上に置かれている。開いた胸元から手が差し込まれ、私は思わずその冷たさに震えた。
「………っん、」
「そんな声を漏らすな…君は本当に罪深い女だ」
「違います、冷たくて…!」
「脚を開いて。ほら、君が好きなものをあげよう」
「いや、ちがっ………ッ…っはぁ、んん、」
下着をずり下ろされ、露わになった尻に熱い男根が押し当てられる。
結局のところ、娼館に居ても、側妃となって宮殿に入ったとしても、することは同じだった。着るものから食べるものまで管理されるのだから、側妃の方が自由は少ないと言えるかもしれない。
しかし、皇子は約束通り、私の借金を帳消しにした。
私をがんじがらめにしていたベンシモンの負の遺産は、文字通りゼロになった。そういった面ではもちろん感謝しているし、どういう因果か王族に気に入られたラッキーな自分を喜ぶべきなのだろう。
そんなことをぼんやりと考えている間に、ゆるやかだった抜き刺しは激しさを増し、私は壁に手を突いた。呼吸に集中すれば、いくらか痛みは逃げていく。
「……ジュディ、口付けを」
言われるがままにキスをしようと振り返り、見上げた顔が一瞬ヴィンセントに見えて私は息を呑んだ。
「…っ……そんなに締め付けないでくれ、まだ夜は長い」
「ごめんなさい、」
唇を重ねると、当然のように舌が捩じ込まれる。どうしたって離れられない蜘蛛の巣に引っかかったような気持ちだった。だけど、自らその道を選んだのは私で、私はこの選択を誰のせいにすることも出来ない。
「ジュディ……っああ、ジュディ、出そうだ、」
「んんっ……あ、ああぁっ!」
ズルッと抜け落ちた剛直は私の尻から太腿に掛けて、熱い精を吐き出した。
首尾よくタオルでそれを拭き取って、テオドルスは私の身体を抱き上げる。向かう先に見えるのはベッドなので、私はたぶんまだ眠るわけにはいかないのだろう。
「愛してる……ジュディ、君が一番美しい」
熱っぽい目で語るテオドルスに私は微笑む。
身体を重ねることが愛ならば、私は実に浮気者で、私を抱く男たちは皆大層愛情の深い人間なのだと思う。
私は、慈しむような優しいキスを思い出して、少し震えた。
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