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第三章 テオドルス・サリバン

62.モーニング◆ヴィンセント視点

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「………え、何て言った?」

 僕の質問にゴーダは答えなかった。
 ただ、机の上に視線を落としたまま黙り込む。

 テオドルスとの話を終えた僕は帰る場所もなく、とりあえず入ったくたびれた安宿で眠った。そこから二日ほど宿に篭って計画を練り、三日目になると流石に気が狂いそうになったので意を決して出掛けてみた。

 ウルズという街は少し特殊で、すべてがパレルモの管轄ではなく、部分的にトリニティが関係している店が存在する。よくそんな状態で今まで来たなと思うけど、そうしたところも二つの組織が元を辿れば同じファミリーであったが故なのかもしれない。


「ねぇ、ゴーダ……お前、先生が消えたって言ったか?」

 僕は絞り出した自分の声が小さくて驚いた。

「違うんだ。俺はいつも通りに仕事を終えて店から出てくるあの女を待っていた。でも、一向に姿を見せなくて…」
「それで受付に確認したら帰ったって?」

 ゴーダは大きな身体を縮こまらせて頷いた。
 無理矢理頼んでいる以上、責めることは出来ない。

 だけど、僕はかなり動揺していた。
 やっと巣穴から抜け出してゴーダにコンタクトを取った時から彼は様子が変だった。こうして郊外の喫茶店に呼び出して、事情を聞き出すとなんと「ジュディが消えた」と白状したのだ。しかもどうやら昨日のことではなく、数日前の話らしい。僕は、宿に閉じこもっていた自分を悔やんだ。

「店には?」
「電話したら、辞めたって……」
「………なるほど」

 嘘を吐いている風ではない。
 おそらく店の管理人に聞いても事情は知らないだろう。ゴーダ曰く家の鍵も閉まったままで中には入れなかったらしい。窓ガラスを割って入ることは出来るだろうが、朝晩通して電気が灯されない家に彼女が居るとは思えなかった。

 だとしたら、知り得るのは。

「重ね重ね悪いけど、車って借りても良いかな?」
「あ…ああ、だがよ、ヴィンセント…」

 ファミリーのことを言いたいのだろう。
 僕が確認したところ、どうやらゴーダを含めたメンバーにはボスから僕の話はされていないようだった。てっきり総出で鬼ごっこ状態になると思っていたので拍子抜けだ。

 隠すことでもないので、レストランであったことを話すと、顔に反して優しい彼はえらく心配してくれた。そりゃあそうだろう。番犬が飼い主から銃を向けられるなんて、それは死刑宣告みたいなものなのだから。

 ジュディが消えた。
 唯一その行方を知るとしたら、それはきっとトリニティだ。

 考えられるのは、もっと稼げる仕事があると言って彼女を引き抜いたか、或いは僕を誘き寄せるために匿っているか。いずれにせよ、アルが言っていた話が本当か知るためには、僕は彼らに顔を合わせに行かなければいけないのだろう。


「ヴィンセント…お前、免許持ってんのか?」
「持ってないけど、見様見真似で」
「俺の車を潰す気か!」
「ちょっと掠る程度だよ」
「お前、危なっかしいんだよ。俺も行くから横に乗れ。スクルドなら前の彼女の家に行くためにクソほど通ったから大丈夫だ」

 やっといつもの調子に戻ったゴーダを見て笑った。
 巻き込んでごめん、という薄っぺらい僕の謝罪を大男は聞き流す。そういう不器用な気遣いがこの男の優しさであると僕は知っている。

 白いバンに乗ってシートベルトを掛けた。
 遅い朝食が胃の中でゆらゆらと揺れている。

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