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第二章 ジュディ・マックイーン
36.男と男◆ヴィンセント視点
しおりを挟む「それでなんで俺の家なんだ」
「他に行くアテがなかったんだよ、頼む」
「俺は今日こそ女を家に呼ぼうと思ってたんだ!」
「大丈夫だよ、僕は気にしないから」
「俺が気にするわ!」
そう言ってベシッと僕の頭をしばいてゴーダは鼻息荒くその場に座り直す。
決して広いとは言えない彼の住処も、邪魔する身としては多くを望めない。僕は良い香りがするジュディの家のことを思い出して溜め息を吐いた。
「だいたい、お前はなんで大好きな先生のとこに戻ってねぇんだよ!こんな部屋に男二人は狭いだろ!」
「それに男臭いからなぁ」
「うるさいわ、文句あるなら廊下で寝ろ」
言いながらソファに毛布を投げてくれるあたり、彼は非常に優しい男なのだ。僕はありがたく寝床に横になって、今日のことをツラツラと語った。
つまり、意を決してジュディの家に向かったけれど彼女は不在で、その代わりにベンシモンに恨むを持つ被害者と対峙した話。そして気が付いたら親切な「お友達」の家だったことについて。
「だから、その流れでなんで俺の家に来るんだよ。働いてる店に突撃するんじゃなかったのか?」
ゴーダは半分寝ているような声で投げやりに聞き返す。
「止めたんだよ。金にものを言わせて無理矢理に会いに行くなんて迷惑だろう。第一、彼女は仕事中なんだ」
「お前にもそういうマトモな考えがあるんだな」
「僕はいつだって真人間だよ」
「っは、どの口が言うか」
返事をしなかったら、ものの数分で寝息が聞こえて来た。
この、大きくて恐ろしい見た目に反して優しい男に、神様が良い女を充てがってくれることを祈った。そして、願わくば僕にはジュディを。
本当は、僕は怖くなったのだ。
迷惑だと突き放された時の彼女の顔が何度も頭の中でフラッシュバックして、自分が行おうとしている全てのことに自信が持てなくなった。ジュディがこの街を去ってしまえば、僕はもう二度と彼女を見つけだせないかもしれない。
これ以上、嫌われたくないと怯えてしまった。迷惑だと自覚していながら想いを押し付けるのは、きっと相手にとっては恐怖でしかない。
もしも。もしも、ジュディがどうしても僕を受け入れられないと言うなら、僕は今まで通りの「良い教え子」でありたいと思う。一緒に住めなくなっても、たまには何処かで会って、近況を交換するぐらいの距離感に居たい。
そんな都合の良い願いはきっと聞き入れられないし、僕は馬鹿だから、たとえそのポジションを手に入れたとしても、何度もまた同じ過ちを繰り返すのだろうけど。
(……先生、僕はどうすれば良いですか?)
毛布から顔だけを出して、窓の外に広がる空を見上げた。
流れ星が本当に願いを叶えてくれるならば、僕は一晩中だって探し続ける。願い事は一つだけ。欲張ったりはしないし、やっぱり無しだなんて言わないから。
どうか、どうか、彼女の目に映りたい。
ジュディの心の真ん中に僕が居れば良いのに。
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