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第二章 ジュディ・マックイーン

15.再会

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 葬儀の日当日、想像していた以上の人数が家へと駆け付けた。私は家の準備に追われながら午前中を慌ただしく過ごし、軽食のカップケーキを口に放り込んで、少し早めに連れ立って訪れて来たベンシモンの友人への対応に当たった。

 随分と広い交友関係があったようだ。
 同情の目や好奇の目をのらりくらりと躱して、私は白い花束がいくつも積み上がった机の上を見上げる。もう日は西の空に身を潜めようとしており、そろそろ弔問客も打ち切りだろうかという頃。

 呼び鈴が鳴ったので、仕方なくのろのろと立ち上がって玄関へと向かった。もう次の人を最後に、玄関を施錠してしまおうか。そんなことを考えながら私はドアノブを回した。


「………ヴィンセントくん…?」

 そこに立っていたのは、五年ぶりに再開する教え子だった。
 癖のある黒髪はそのままで、少しだけ厚みを増した胸板や落ち着いた顔付きは、彼が大人になったことを意味している。ただ老いに向かうだけの自分とは違って、彼はきっと華やかな五年間を過ごしたのだろう。

 顔を見たままで黙りこくるのも失礼なので、私は差し障りのない話をしながら彼を家の中へと案内した。案内すると言っても、肝心の故人はこの部屋に居ない。遺体のない葬式を不思議がる人も少しは居たけれど、ほとんどが空気を読んでかそのことには触れなかった。

 写真立ての前で膝を突いて、ヴィンセントは死んだ夫に手を合わす。その姿を見ていたら、ふいに結婚式の日のことが頭を過ぎった。そうだ、この子はあの日も私の新しい門出を祝いに駆け付けてくれていたのだ。こんな形でまた再会するだなんて。

 目を閉じる綺麗な横顔を見ていると、左に対して妙に膨らんだ右側の頬が目に入った。よくよく観察すると口の端も切れているように見える。


「ヴィンセントくん……あの、」

 余計なお世話だと理解しつつ、言葉は滑り出た。
 長い睫毛が揺れてヴィンセントがこちらを見上げる。

「どうしましたか、先生?」
「もしかして…まだ悪い人たちと関わりが…?」
「悪い人?」

 不思議そうに聞き返すから、私は己の失敗を呪った。そうだった、彼が学生の頃のその淫行を「無理矢理犯された被害者」と片付けたのはただの自分のご都合解釈で、真実がどうだったかなんて知り得ない。

 幸い話を合わせて卒業するまで可哀想な生徒を演じてくれたヴィンセントには感謝しかないけれど、その設定を今この場で持ち出して、私はいったいどうしようと言うのか。

 しかし、無垢な教え子は私の言葉に乗ってきた。


「……そうなんです、実は追われていて」
「え!?借金取りか何かなの…?」

 訳ありの顔で受け答えするヴィンセントの顔を見て私は思わず食い気味に聞き返す。そう言われればそのような気もするから、私は本当のことが分からなくなった。

 驚く私を前に、ヴィンセントは淡々と「住むところを追い出された」と告白して居候させてくれないかと提案してきた。申し訳ない様子で、無理にとは言わないからと添える彼を私は突き放すことが出来なかった。

 ヴィンセントが学生時代に私が目撃した女子生徒との出来事に対して下した自分の判断も、もしかすると間違いではなかったのかもしれないと思えてくる。目尻を下げて捨てられた犬のような表情を見せるヴィンセント・アーガイルは、それぐらい見る者の同情を誘った。

 私は渋々その提案を承諾する。
 彼の口角がわずかに上がったことなど知らずに。

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