73 / 73
番外編
『溺愛以外お断りです!』17
しおりを挟む「待って、信じられないわ」
「レナード!あんなに何回も作戦会議を開いたのに肝心の貴方がしくじってたなんて、どうすれば…!」
「まだ伝えてなかったの?指輪のサイズは教えたはずよね?それとも作り直しでもしているの?」
怒涛の勢いで友人二人から責められるレナードを見ていたら、私は居た堪れない気持ちになった。
ミレーネがどうして私の指輪のサイズを知っているのかについては疑問が残るけれど、二人してこういった場を準備してくれていたのは嬉しい。問題は私がまだ一言もレナードから結婚の意思を聞いていないことなんだけど。
「コーネリウス国王だって協力するって言ってたじゃない。フェリス王妃なんてもうベビーベッドを注文したって言ってたわ」
「ミレーネ、それは流石に早すぎるわ」
「だってグレイス、この男、一年余りイメルダと一緒に生活してまだ結婚してないのよ?信じられる?」
「まぁまぁ。婚約期間が一年っていうのは普通よ。色々と見極める必要があるし……」
「違うわ、レナードは奥手過ぎるの。なんだかんだと理由を付けて忙しそうにしてるけど、そんな風だからあの狐男に盗られるのよ」
ショックを受けた顔でレナードが頭を押さえる。
私は突然飛び出した元婚約者の話に眩暈を感じた。
「君たち……好き勝手に言ってくれるけどなぁ、」
「なに?もっともな言い訳でもあるの?」
「こっちはずっとセイハム大公の動向を追っていたんだ。またイメルダや彼女の大切な友人が被害を受けることがないように、注視して……」
「それはそれ、これはこれよ」
「リゲルくん。君の妻を連れて帰ってくれるか?」
レナードが話し掛けた先で、残念ながらクレサンバルの王子はケーキのクリームを削ぐことに全力だっため、答えを得ることは出来なかった。
使用人たちがクスクスと楽しげに笑いながら「切り分けましょうか?」と声を掛ける。グレイスは溜め息を吐いてその申し出を受け入れた。
◇◇◇
かくして、一連の出来事は幕を閉じた。
ミレーネとグレイスのサプライズは成功とは言えなかったかもしれないけれど、私たちは大いに飲んで食べて楽しい時間を過ごした。最後には父ヒンスもデ・ランタ伯爵家に姿を現したりして、私は久しぶりの父との会話を楽しんだ。
「………イメルダ、起きてる?」
夜着に着替えたレナードが扉から顔を覗かせる。
私は慌てて居住まいを正して、そちらに向き直った。
「起きてるわ。どうしたのこんな時間に?」
「ごめん、少しだけ話をしたくて」
「良いわよ。私も貴方と話したい気分だった」
立ち話もなんなのでソファに座るように進めると、レナードは首を振って「このままで良い」と言う。いったい何の話が始まるのかしら、と緊張が身体を走った。
「今日の件……すまなかった」
「ふふっ、良いのよ。面白かったから」
「大切なことは一番良いタイミングで伝えたくて、頃合いを伺い過ぎてしまったんだ」
「みんなは知ってたのね?」
「そうだね。色々と助けてもらったよ」
レナードが私の前で片膝を突く。
差し出された手には小さな白い箱が置かれていた。
「………私が開けて良いの?」
「もちろん。気に入ってくれると嬉しい」
パカッと開くと、金色の指輪が目に飛び込んだ。中央には可愛らしいエメラルドが鎮座し、それに寄り添うようにダイヤが二つ並んでいる。
「イメルダ、結婚してほしいんだ」
「……貴方が言うと本当に王子様みたいだわ」
涙で見えなくなった視界の向こうで「一応王子だからね」とレナードが冗談っぽく笑う声が聞こえる。言葉はしばらく出て来そうになくて、代わりに精一杯の気持ちを込めて愛しい背中を抱き寄せた。
「これは……了解だと受け取っても良い?」
「ええ。嬉しくって…夢じゃない?」
「君は面白いことを言うね。婚約が決まった時からある程度こうなると想像してると思ったよ」
「願ってはいたけど、自信はなかったから……」
正しくはなくても、正解ではなくても。
私は辿り着くことが出来た。
「イメルダ、君が生きたいように生きてくれ。僕はそれを一番近くで見ていたい。君が喜んだり、怒ったり、泣いたりする姿を、全部一緒に」
「………出来れば怒りたくはないわ」
「なるべく気を付けるよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
レナードが私を抱きかかえて、私たちはふかふかのベッドの上で昔のようにはしゃいだ。くすぐったり、くすぐられたりしながらやっと涙が乾いた頃、そういえばとレナードが不思議そうに問い掛けた。
「グレイス嬢の小説のタイトルって何だったの?」
私はハッとして固まる。
恥を偲んで勇気を出して口を開いた。
「…………す、よ」
「え?」
「“溺愛以外お断りです”……!」
驚いて固まるレナードに枕を投げ付けて、私たちはまたベッドに倒れ込む。ドタンバタンと繰り広げられる物音を何と勘違いしたのか、後日王妃から口枷と鞭のセットがプレゼントされたことをここに記しておく。
おわり。
◆ご挨拶
ひぇぇ。お久しぶりです。
前回更新からとんでもなく日が空いてすみませんでした。ムンドロに出す大人向け小説のためにムーンライトノベルズさんに逃げていました。
もう更新するたびにお気に入りがボロッボロ剥がれて枕を涙で濡らしていたので、最終話まで一気に更新することにします。くわばらくわばら……
それと新しいお話をアップしました。
聖女と騎士のお話です。ご縁があればどうぞ遊びに来てください。
ご愛読ありがとうございました!!
216
お気に入りに追加
2,398
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(55件)
あなたにおすすめの小説
恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?
AK
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」
私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。
ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。
でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。
私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。
だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。
gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
分かりにくくてすみません;;
そして更新が亀でごめんなさい…🐢
がんばりますので生暖かい目で見守っていただけますと幸いです……🙏🙏
感想ありがとうございます。
ガストラの台風はかなり手強いのです…!