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番外編
『溺愛以外お断りです!』2
しおりを挟む「あのね、レナード……」
私に背を向けて服を着替えるレナードに、友人が書いた小説に関してどう告げようか悩んでいた。
来月にはミレーネも留学から帰って来る。私たちが婚約して一年という節目もあり、そろそろ結婚を望んでいるらしい国王の声も耳には届いていた。その期待には是非とも応えたいけれども、多忙なレナードとのすれ違いに悩む私に、そんな提案は出来そうもない。
「どうしたの?」
「うん…グレイスが書いた本が出版されるらしくて…」
「ああ、そういえば彼女の夢だったね。何かお祝いでもしようか」
「あ……そうね、それは是非とも……」
「いつが良いかな?君から確認してくれる?」
手を重ねてそう尋ねるレナードにこくりと頷く。
言えない。我が夫と私の出会いから婚約に至るまでの馴れ初めがパロディ調で詳細に書かれているなんて。というか、もしかすると言わないほうが良い?
だけど、他人経由で耳に入るのも危険だ。
温厚なレナードだって不快に思う可能性がある。
「あの、聞いて欲しいの…レナード!」
「良いよ。その前に少しだけシャワーを浴びて来ても良いかな?今日は一日中移動が多くてね。あとでゆっくり時間を取るから、約束するよ」
そう言って私の額に口付けるとレナードは去って行った。
最愛の王子からのこうしたスキンシップはとても嬉しいことで、婚約して一年経っても未だに慣れそうもない。
しかしながら、ゆっくり時間を取ると言ってくれたレナードは浴室から戻るとすぐに執務長に呼び出されて部屋を出て行ってしまった。結局のところ小説の話も結婚の話も上手く進められないままに、私は一人で息を吐く。
最近気付いたことだけど、私は自分で思っている以上に意気地なしで弱気だ。
今まではカミュに支えてもらってなんとか保っていた精神も、些細なことでふるふると揺らぐ始末。こんなことで王太子妃にはなれないと、この頃の私はカミュ頼みを控えて自分で解決するように努めている。
(結婚……出来るのかしら?)
幸いなことに今のところは国民から反発の声はない。
とにかく色々な背景のある二人なので、少しでも良く在りたいと、王宮入りに伴って用意された教育には精一杯取り組んでいる。週末も欠かさず修道院や孤児院に出向いてボランティアに勤しんでいるけれど、自分がやっていることが正しいのか、どうにも自信が持てない。
ドット商会によって持ち込まれた薬物の被害は徐々に収束に向かったが、まだ後遺症に苦しんでいる人も居ると聞く。そうした報告をレナードから聞くたびに、自分だけが前を向いて幸せを求めることに胸が痛んだ。
レナードとの結婚は、確かに私の目指すべきゴール。
だけど、あんなことがあったのに、私だけが何食わぬ顔で白いウェディングドレスを着て、国民に手を振って当然のように祝福しろなんて言えるだろうか?
分からない。本当は考えることから逃げている。
あんなに望んでいたハッピーエンドが、今は恐ろしい。
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