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本編
46.最期の日
しおりを挟むあれから、ずっと頭が重たい。
一時間ほどの点滴を終えて私は父と共に自分の家へ帰宅した。国王と王妃からは自分たちの親族がこのような犯罪を犯したことに対する謝罪を受けた。レナードも同じように後悔を滲ませた言葉を述べて、私に頭を下げた。
その顔を見ることなんて出来なかった。
私は自分の行動を恥じていたから。
今、この場にマルクスが居たら、意地悪な彼は私のことを「堅物令嬢」だけでなく「無知で愚か」と付け加えるだろう。
本当にその通りで、私は何の警戒もしていなかった。レナードへの好意を忘れられないままにデリックと仮初の恋人契約を結び、関係が発展しないのを良いことにダラダラとその遊びを続けた。
結果がこの通り。
(みんな呆れているわよね……)
ベッドに横たわった状態で片手を上げてみる。カーテンの隙間から差し込む朝日が、腕に柔らかな影を落とす。
今日、国王夫妻は王宮にドット公爵家を招待する。急なことではあるけれど、表彰ということできっと彼らは浮かれて来るはずだし、そうでなくともこの国で爵位を受けている以上、私たちはガストラの王家に逆らうことなど出来ない。
ノックの音がして、遠慮がちな父の声がした。
「………イメルダ、おはよう。起きてるか?」
「おはようございます」
「今日は私も協力者として王宮に出向くことになっているが、お前は一人で留守番させて大丈夫か?」
「あの……私も行きます」
「ダメだ」
父は扉を開けて部屋へ入って来た。
私の枕元に歩み寄って、身を屈める。
「昨日の今日だ。何か危険があったらどうする」
「でも…マルクスたちの最期は見届けたいです」
「イメルダ、」
「私は…私を貶めて、私の大切な人たちを侮辱したドット公爵家の行く末を……この目で見届けたいのです」
父ヒンスはもう何も言わなかった。
私の目をじっと見つめた後、諦めたように頷く。
私は感謝を示して、決戦に向かうために身支度を始めた。狼狽えない。怯えない。何を言われても、私は自分の声を信じて行動するだけ。誰にも脅されたりしない。
◇◇◇
一つの高貴な公爵家が今日、終わりを迎える。
すべて思惑通りに進むのだろうかという心配はあった。コーネリウス国王はきっとマルクスの父であるベンジャミンをはじめとして、その母キーラ、そしてマルクス本人に加えてシシーも呼び出しているのだろう。
認めるのだろうか?
自らの罪を、その場で。
宮殿に到着すると、レナード本人が出迎えてくれた。
父ヒンスと何か言葉を交わしてこちらに近づいて来る。
「おはよう…イメルダ。体調はどう?」
「もう平気。心配掛けて、ごめんなさい」
「……君が謝ることじゃないよ」
それっきり会話らしい会話は生まれず、私たちは沈黙を間に挟めたままで並んで国王たちが待つ謁見室へと向かった。
部屋の中にはすでにコーネリウス国王とその妻フェリスが待機していて、フェリスはこんな時なのに例によってあの子猫を抱いていたので私は驚いた。
レナードが何か言いたそうな様子で母親を見ていたけれど、今日もお花畑に居るような彼女はその視線を勘違いしたのかこちらに向けてにこやかに手を振っている。
その場には、国王が呼んだのか、一部の貴族たちも集結していた。口の堅い者たちを選んだのか、それとも今回の件に関係する者たちなのか。そして、護衛の数も通常より多く感じる。何かあった時に備えてのことだろう。
「国王陛下及び王妃殿下、ドット公爵家の皆様がいらっしゃいました」
「うむ………案内せよ」
ギィッと扉が開いて先頭に立つベンジャミン・ドットが部屋へと入って来る。
誇らしげな顔で入場した彼は、その瞬間、自分たちを取り巻く群衆の多さに驚いたようだった。決して好意的ではない私たちの視線にも気付いたのかもしれない。
続いて入って来たキーラも、腕を組んで入って来たマルクスとシシーもギョッとした顔でキョロキョロしている。ベンジャミンが急いで振り返った先で、案内役の男が部屋の扉を閉める重たい音がした。
「これより、ドット公爵家に対する公開尋問を執り行う」
国王の発した声が部屋の空気を震わせた。
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