【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ

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本編

26.忘れたい夜◆レナード視点

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 父親の従兄弟にあたるアゴダ・セイハム大公の息子だというデリックが王宮に滞在してもう一週間が経つ。

 初めは南部に住む彼らは王都の別荘やらホテルで生活していたようだが、大公が南部に帰ったタイミングで息子のデリックだけが王宮に移り住むことになった。彼が言うには「まだ自分は王都ですることがある」そうで、その時は特に何も思わなかった。

 いや、違和感は感じていた。

 彼の誕生日祝いで会った時も、別荘で話をした時も、デリックはやたらとイメルダのことを気に掛けていた。たしかに、イメルダについての情報を与えたのは自分だ。デリックがこうして遊びに来る前から、王都で遊ぶ親しい友人としてイメルダのことは話していた。

 そうしたらこの結果だ。
 何故かウェディングドレスを着たイメルダがデリックと近い距離で抱き合っていた。見間違いでなければ、デリックの手はドレスを脱がせようとしていたように見える。

 動揺を悟られないように、部屋を出るのがやっとだった。
 イメルダが自分の想いに応えられない理由が分かった。


「おいおい…浮かない顔だな、王子様?」
「……部屋に入る前に声を掛けてくれないか?」

 いつの間に入って来たのか、扉のそばにはデリックが居た。

「そんなにショックが大きかったか?」
「何のことだ?」
「イメルダも君も惚けるのが好きだなぁ」
「そうだな…お前みたいに生きられたら楽だろうよ」

 デリックは何が面白いのかフンッと笑ってベッドに腰掛ける。仮にも王子である自分のプライベートな部屋に入って来て寛ぐとは、その神経の太さを見習いたい。

 きっとそれが自分たちの違いなのだろう。
 イメルダの心を射止められた彼との差。

「これは何だ?」

 デリックの手がベッドサイドの棚の上に置かれた小さな箱に伸びるのを見て、慌てて制止した。

「触らないでくれ。大事なものだ」
「なんだなんだ?ミレーネ嬢への贈り物か?」
「違う、人から借りているから…返す必要がある」
「ふぅん……?」

 納得していない顔ながら、デリックは手を引っ込めた。

 本棚を物色し始めたこの男はいったいいつ部屋を去るのだろうか、と思っていたらデリックは至って自然な様子で口を開いた。

「そういえば、イメルダと付き合うことになったんだ」
「………」
「今日見ただろう?俺たち恋人同士になれたんだよ」
「そうか……良かったじゃないか」
「レナード、君のお陰だよ」

 首を傾げるとデリックは笑顔を見せる。

「イメルダに関する事前情報をたくさんくれただろう?好きな遊びとか、子供の頃の話とか。そういった話を振ったら彼女、心を開いてくれたんだ」
「………へぇ」
「君と同じ女を共有するのは不思議な感覚だけど、まぁ過ちは過ちだからな。僕は恋人としてゆっくり進めるよ」

 返す言葉など、あるはずもなかった。
 イメルダ自身が言っていたのだ。

 どうかしていた、と。
 あの夜のことは忘れよう、と。


「………本気なのか?」
「うん?」
「昔、お前は言っていただろう。可哀想な女に優しくするのが堪らなく好きなんだって。そういった一時的なものならイメルダを相手には…」
「ああ!残念ながら今回は違うな」

 デリックは熱い目をこちらに向ける。

「イメルダは確かに可哀想だ。結婚を控えた王太子と迂闊に身体の関係を持ってしまい、挙句、自分の婚約者は義妹に奪われた」
「…………、」
「僕はただ素直に寄り添いたいだけだ。君にも、あのマルクスっていうクソにも出来なかったことを、やるだけ」

 そう言って立ち上がると、来た時と同様にデリックはふいっと部屋を出て行った。

 ソファに座り込んだままで、ずるずると沈む。

 仕方がない。すべてはタイミングだ。ミレーネと婚約した時にマルクスが義妹に家族以上の感情を抱いているなんて知らなかった。勢い余ってイメルダに気持ちを伝えた時、彼女は感謝こそ述べても、同意など見せなかった。

 本当にただ、寂しさを紛らわすためだけの一夜。
 イメルダが忘れてしまいたいと願うほどに。

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