【完結】愛してくれるなら地獄まで

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
13 / 21

12.理解不能

しおりを挟む


 金曜日の夜だったので、テレビをつけて偶然掛かっていた映画を観ていたら部屋の扉がノックされた。警戒しながら開けると、スーツを着た白秋が立っている。カニを持って来ていたポニーテールの男もかっちりした格好をしていたし、今日は何か特別なイベントでもあったのだろうか。

「どうしましたか?」
「真さん、まだ居てくれたんだね」
「…スマートフォンとか貴重品もなかったので」
「ああ。そうだったね、ごめん」

 早く一人になりたくて開いた扉の隙間を少し縮める。

「ね、鍋食べない?」
「私はいいです。皆さんで好きに…」

 その時、ちょうどタイミング悪くお腹が鳴った。私の腹はとうとう人間の会話を理解できるようになったらしい。慌ててお腹を押さえる私を見て、白秋は口元に手を当てて笑う。

「いいね。真さんの身体は正直だ」
「……いいんですか?ご一緒しても」
「鍋とか焼き肉は大人数の方がいいでしょう」

 準備できたからおいで、と手招きされたのでテレビを消してその後に付いて行った。

 リビングではもうすぐ始まる宴会に向けて、鍋の中でグツグツとカニが煮立っていた。大きな赤い脚は収まり切らずに少しはみ出している。

 ポニーテールの男の他にも5人ほど男が加わっていた。こんな男女比で食事をしたことがないので緊張する。ただでさえ彼らからしたら私は『誰?』状態なのだ。自分の隣の席を引いて座るように促す白秋に、視線で助けを求めた。

「……えっと、こちらは家政婦の真さんです。住み込みで俺の世話して貰ってるから、みんなも仲良くして」

 そんな近所の子供に紹介するような白秋のゆるい紹介に対して、男たちは口々に返事をする。どうしたら良いか分からずに、とりあえず頭を下げておく。

 乾杯の合図で宴会は始まった。
 立ったまま換気扇の下で煙草を吸いながら話す人、椅子が足りないのでソファに移動する人、それぞれ自由に楽しんでいる。その雰囲気だけで少し楽しくなってしまって、久しぶりに心の緊張が解けた。


「食べてる?」

 テレビに映ったアイドルのうち誰と付き合いたいか、という話し合いを真剣に展開する男たちを微笑ましく見ていたら、隣から白州が覗き込んできた。びっくりして上体を引きながらブンブン頷く。

「食べてます、いっぱい」

 なんとか答える私の皿に白秋はお玉で掬った豆腐やら肉団子を盛り付けた。もっと食べろという彼の優しさだろうか。お礼を言う私の声に『あ!』という大きな声が被った。

 見るとソファに座った男の一人がこちらを指差している。

「白秋さんが家政婦とイチャついてる!」
「いや、そういうんじゃ…」

 慌てて、顔の前で否定のために振った右手を白秋が掴んだ。ニコニコした表情でギュッと力を込められる。

「まだそんな関係じゃないよ。俺、結構真剣だから茶化さないで見守ってほしいな」

 開いた口が塞がらない私を横目に、白秋は男たちの冷やかしに応えている。これが男のノリというものなのだろうか。堅物で生きてきたので、こういう冗談への耐性が皆無なのだけれど、ここで本気にして場を白けさせても良くない。私はカニの身を一心不乱に穿ほじり出すことで心を落ち着かせた。

 須王白秋は、相変わらず理解不能だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...