【完結】愛してくれるなら地獄まで

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
10 / 21

09.透明人間

しおりを挟む
私が初めてあの人に...ドミニカ様に出会ったのはちょうど5歳になったばかりの頃だった。
私の今は亡き毋に連れられ後宮に御挨拶に行ったのだ。

母上とは違う紫色の髪と瞳で、煌びやか...いや、その派手過ぎる装いに苦手な人だと感じてしまったのは今でも変わらない。

「お初にお目にかかります。レオン・クラン・カスティリアと申します。以後、お見知り置きを。」

そうしてまだ、少し慣れない不格好な礼をした。
そうするとドミニカ様は目を優しそうに細め、口をにこやかにした。

「これはこれは、レオン様。ご丁寧にどうもありがとうございます。
私はドミニカですわ。どうぞ、第二の母だと思って下さいませ。」

見た目よりも遥かに優しそうな物腰に私は少し警戒心を解いてしまっていた。
ああ、この方は見た目よりも穏やかな人なのではと。
だが、その勝手な想像は直ぐに打ち砕かれる。

「ああ、そうだわ。アリナ様もいらしゃっていたわね。あまりにも質素な装いだから気付かなかったわ。
ごめんなさいね...?」

そういい扇で隠す口元は見なくても分かるほど歪んでいるろうと感じた。


母上はその物言いに不機嫌を示すように眉を寄せたが、直ぐに戻す。

「いいえ…お気になさらないでくださいまし。今日はこの子の挨拶で来たのですから。」

そう言って、軽く流していた。
そんな安い喧嘩を受けるほど頭も弱くないのだ。さっさと挨拶を済ませ、帰るつもりでいた。

「…そうですわね。あぁ、そうだわ!せっかくなのですからお茶会なんていかがかしら?私、もっとよくレオン様とお話したいのです。」

ドミニカ様はこれはいい案だとばかりに先に決め、近くのメイドに支持をした。

母上はあまりに変えない顔を少ししかめ、忌々しそうにドミニカ様を見つめていた。

断ってもよかったのだが、あまりこの人に悪い印象を与えるべきではないと判断し参加することになった。

母上はとても嫌そうだったがさっさと終わらせて帰るわよと目が語っていた。

席につき、お茶会が始まる。
時間のほとんどをドミニカ様がお話になり、ご自分の得意なこと、好きなこと、趣味や何故かお父様についても多く語っていた。

ドミニカ様のお生まれは隣国のアスクエート帝国で第3皇女だったそうだ。
アスクエート帝国は海に面しており、貿易が盛んだった。それに目をつけた父上…国王陛下はアスクエート帝国とカスティリア王国に協定を結んだ。

陸地での貿易行路でカスティリア王国の領土を渡る代わりに、アスクエート帝国の海路の貿易航路を確保した。そんな協定だ。
そして、その協定をより強固にするためにドミニカ様との政略結婚が決まったのだ。

だが、お父様は元々結婚だなんだという話は
苦手で、母上との結婚も国王という地位に収まるためだけのものだったらしい。
そして、今回も国の実益のためだ。

結婚だなんて名ばかりで、ドミニカ様を早々に後宮に放り込み放置しているというのが今の現状だ。

まぁ、お父様が物凄くドミニカ様を嫌っているというのもあるのだが…


ふと、耳を済ませると女の子の泣き声が聞こえる。

「あら、ラベンナが泣いていますわ。私に会いたくなったのかしら…?」

そう思うのであれば、早く会いに行けば良いものを。

「私のラベンナは、それはそれは可愛いのですわ。私に似たのかしら…ふふ。この前もね…」


そうして、また話が始まる。
私は最早遠い目をして、これはいつ終わるのだろうか。と感じていた。

ふと、母上を見ると顔色が少し悪く感じる。
近くに控えていたメイドを呼び、支えられるように立ちながらも母上はこちらを見やった。

「ごめんなさい…少し気分が優れないみたいで……そろそろおいとましましょうか。」

はい、と立ち上がろうとすると私の手をドミニカ様が掴んだ。

「お待ちになって。レオン様、まだ私とお話しましょう?私、まだまだ話し足りないのですわ。アリナ様、ご気分が優れないのでしたら直ぐに医務室に行かれた方が良いのではなくて?」

私はその一瞬、この人が何を言ったのか分からなかった。

何を言っているんだこの人は?
母上は正妃、貴方よりも地位は上だ。その方にその言いざまはなにか?

頭に血が登り始め、掴まれた腕を振りほどこうとした。が、その前に母上が弱々しい声で話し出す。

「……何を言って………。うっ…」

益々、顔色が悪くなっていく。そんな母上が心配になり、気づいたら声を出していた。

「母上、私は大丈夫です。ドミニカ様とお茶会を続けますので、早く王宮にお戻りください。私は、大丈夫ですので。」

そう強く見つめ、母上に伝える。
母上は酷く眉間にシワを寄せていたが、暫くして頷き、メイドに支えられるようにして王宮に戻って行った。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...