84 / 99
第四章 二つの卵と夢
76 オーランド・デボワ2
しおりを挟む「それでいったい、どういう経緯で僕の研究室で食事会を開催する流れになったんだ?君たちはここを宴会場か何かと勘違いしているのか?」
眉を寄せてあからさまに不機嫌な顔をするマウロ・ソロニカが見下ろす先では、教師陣に紙皿を配って回るジルの姿があった。
生徒たちを送り届けたベルーガも合流して、ミドルセンやアーベルが自分たちのペースで食事を開始する中、輪の中心で居心地が悪そうな男がキョロキョロと周囲を見渡す。どうやらオーランド・デボワという名前であるその男の手首には、今も尚頑丈な手錠が掛けられていた。
今日は土曜日なので暦上は休日だが、サマーキャンプでの一件があって以来出勤できる教師たちは学校へ顔を出しているため、コレットを含めて六人の教師が集結していた。
「プッチ副校長はどちらに……?」
質問を受けて魔法道具学のマクシミリアン・クロイツが口を開く。
「猫ちゃんがね、体調不良らしいの」
「へ?」
「ほら、プッチ副校長って愛猫家じゃない?朝方嘔吐もあったらしいし、一度様子を見たいって言って帰っちゃったわ。可愛い面もあるのね~~ンフフッ!」
場違いな話題と野太い笑い声が部屋を駆け巡って、とりあえず頷きながら、コレットは壁際に立つレオンを見遣った。
レオンはただ一点、囚われた男を見たままで動かない。身なりから男が裕福な出であることは分かるが、デボワ商会の会長とは。
「レオン、君もこっちに来なさい。久しぶりに顔を見たが、グレゴリオに似てきたのぅ。あれは君ほど魔力に恵まれんかったもんで、随分と学校では苦労したんじゃが……」
「ミドルセン先生、僕は世間話をしに来たわけではありません。結界があるとはいえ、この男の仲間がいつ寄って来るか分からない」
「大丈夫じゃよ。ほんの数時間、学校の場所を入れ替えておる。今のプリンシパルはお隣のデネボラ王国の下にある無人島に位置している」
「交換魔法ですか。万が一誰かが結界を潜ったら南の島で仰天するでしょうね」
おどけたように笑ったオーランド・デボワの頭上スレスレを何かが通り抜ける。白い壁に開いた穴を見て、部屋の持ち主であるソロニカの顔色が変わった。
「おいおいレオン、急ぐ気持ちも分かるが他人の部屋に傷を付けるな!それに、説明するなら先ずは君からだろう。クラインくんの顔を見ろ、何も理解してない赤子同然だ」
「むっ……!?」
急に名指しされたので、コレットは口の中に詰め込んでいた肉の塊が変な場所に入った。盛大に咽せる背中を強めの力でクロイツが叩いてくれる。水の入ったグラスを受け取ってゴクッと飲んだ。
「彼女と僕の間で話は済んでいます。敵の前で交わすような内容ではありません」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか!?」
デボワ伯爵は大袈裟に顔を歪めて立ち上がる。
金属の手錠が大きな音を立てて擦れた。
「僕は確かに極地会のメンバーだ!だけど、今日の失敗によっておそらく他のメンバーからの信用を失って、最悪の場合は命を追われることになる!」
「自業自得だ」
「そう言わないで……!!」
冷たく言い放つレオンに向かって、伯爵は必死の形相で歩み寄る。
「取引をしようじゃないか!」
「取引?」
「ああ。僕は極地会の情報を君たちに渡す。だからその代わりに、君たちは僕の命を守ってくれ……!」
◇おしらせ
長々と続いておりますが、すみません。
綺麗に終わりたいという気持ちは作者的にもあるので、読めるときに読んでいただけると嬉しいです。
ファンタジー小説大賞がそろそろ終わるぞ、ということで、もしお楽しみいただけているなら一票を投じていただければ助かります。
また、表紙をシンプルなものに変更しました。もともと私の自己満足だったので、これまでのものは人物紹介のページに隠しております。
どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。
42
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる