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第四章 二つの卵と夢

64 新学期

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 そして、夏休みが明けた。
 今日から新学期。

 プリンシパル王立魔法学校に登校してくる生徒たちは、照り付ける日差しの中、まだ夏を惜しむように不服げな顔で校門を潜る。

 コレットは一人一人に挨拶をしながら、燦々と輝く太陽を見上げた。こうして晴れ渡った青い空を見れるのも後少しのことだろう。秋になれば木枯らしが吹き荒れて、空もきっと徐々に色を失っていく。


「先生ー!おはようー!!」

 元気よく挨拶をしてくれたのは、ミナ・レイトン。隣に立っているのはアニアとヴァレリーだ。ヴァレリーは休暇を利用して南の島に行っていたらしく、白かった肌がこんがりと焼けている。

「課題の魔法をいくつか使えるようになったの。見てみる?」

「ここでは止めて。授業の後で是非見せてね!」

 残念そうにしょぼくれるヴァレリーの背中を叩いて、やや暗い顔をしたアニアにも声を掛けた。

「アニア、おはよう。おやすみはどうだった?」

「………ノエルくんは回復しましたか?」

 ハッとして言葉に詰まる。
 そうだ、彼女たちは真実を知らない。

 長い沈黙は余計な心配を生むだけなので、コレットは努めて明るい声を意識しながら笑顔を作った。レオンの話が本当ならば、彼はきっと今日から登校して来るはず。

「ええ。もう大丈夫よ、今日は会えると思う」

「……っ、良かった……!」

 安心したように緩められる頬を見て、なんとも形容し難い罪悪感を感じた。

 アニアは自分が想いを寄せるノエルが実は年齢操作をした王太子だとは微塵も想像しないだろう。同じ時間を過ごしたレイチェルですら確信は持っていなかったのだから。

 魔法の応用で自分の姿形を変えることは知識として知っているけれど、コレット自身には出来ない。長距離の移動と同様に、そうした行為は魔力の消費が激しい上に高度な技術を要するのだ。

 レオン・カールトンがプリンシパル王立魔法の生徒だったことは分かったが、彼が魔術を使用することには到底賛成出来ない。面と向かって説教出来る立場にないことは理解しているけれど、教育者として今度会う機会があれば一言物申したい。

 そんなことを考えながら迎えた一日目。



「………え?おやすみですか?」

 コレットが聞き返すと、ピクシー・ベルーガが頷く。

「そうよん。さっき保護者であるお祖父様から電話が入ってね、私用で欠席だってさ」

「そうですか……」

 レオンの協力者であるオタビオ・ブライスが学校に電話して来たのは朝の会が始まる十分ほど前のこと。てっきり初日から登校するとばかり考えていたので、拍子抜けする。

 私用というのは、レオンの個人的な用事ということだろうか。それとも、王宮での彼の生活に何か不具合が生じたのだろうか。

 何れにせよ、アニアがきっとまた心配する。
 今日は会えると言った手前申し訳ないので、コレットは謝辞と慰めの言葉を胸の内で思い描きながら教室へと急いだ。

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