58 / 96
第三章 辺境伯の箱庭
53 アルバート・シモンズ
しおりを挟む「レオン………?」
驚愕するコレットの後ろで細い声が聞こえる。
振り返れば、それは一緒に部屋に入ったレイチェルで、見知った同期と再会を果たしたはずの彼女はこちらが心配になるぐらい震えていた。
「久しいな、レイチェル。顔も見たくなかったか?」
「そんなこと……!貴方、私が何度手紙を書いてもまったく返事を寄越さなかったじゃない!私たちがいったいどれだけ心配したと思ってるの……!?」
「どんな顔で会えって言うんだ?」
「………!」
「本当は分かってる。自分がこの場に居るべき人間じゃないことぐらい。だが、今日はアルバートに呼ばれたんだ。お前が来るとは聞いてなかった」
それに、と灰色の瞳がコレットを捉える。
酷い緊張のため心臓が跳ね上がるのを感じた。
「俺はそこの女に用事がある。説明責任ってやつを果たすためにな。アルバート、少しの間だけ二人にしてもらっても良いか?話が終わったら帰るから」
「そうピリピリしないでくれ。僕にとっては君もレイチェルも大切な友人だ」
「お前は人殺しも友達に数えるのか。尊敬するよ」
シンと静まり返った部屋の中で、わけが分からずにオドオドしていると、同じように顔をキョロキョロさせて居心地を悪そうにするダコタと目が合った。
お互い「どうしましょうね」と目配せをして、ただその場の成り行きを見守る。レイチェル曰く共にプリンシパルで学んだ三人の男女は、どうやら何らかの理由で仲違いしているようだった。
「………とりあえず、悪いが俺は急ぎだ。お前の屋敷でこんなことを言ってすまないが、あけてくれ」
「分かったよ。言っておくがレオン、この部屋の中で君の魔力を使うのは禁止だ。いや、領地全域で」
「神経質だな。べつに魔力は母胎に影響を与えることはない。生まれてくる子のことは心配するな」
「えっ?」
うっかり大きな声が漏れた。
ダコタが恥ずかしそうにお腹を隠す。
「えっと……ごめんなさい」
「あ、いいえ!謝る必要はないんです。こちらこそ、失礼しました。察しが悪くて……」
しどろもどろに謝罪するコレットに「良いんですよ」と優しく声を掛けると、アルバートはダコタの肩を抱いたままでレイチェルの方を向いた。
「レイチェル、レオンがああ言っているから、僕たちは移動しよう。ちょうどグズゴベリーの実が成ったんだ。あれはコーヒー豆に似た香りがするので、ケーキに混ぜると美味しい」
「………そうね、行きましょう」
レイチェルは部屋を出る直前、ソファに座ったままのレオンへと視線を投げ掛けた。
しかし、王子はもうそちらを見ておらず、机の上に広げられた莫大な枚数の論文をつまらなさそうな顔で捲っているだけ。やがて扉は完全に閉まって、部屋には二人だけとなった。
60
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる