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第二章 夏の宴と死者の森

46 赤い森3

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 強烈な光に目が眩んで、暫く何も見えなくなる。

 何度か瞬きを繰り返してようやく目が慣れて来た時、コレットはそれまで燃えていた部屋の中心の焚き火が消えていることに気付いた。同様に各自が魔法で照らしていたライトも視界に入らない。


「…………みんな大丈夫?」

 返事は返って来ない。
 焦って動こうとした手がパシッと掴まれた。

「先生、動かない方が良いです」

「ノエルくん?」

 その声がノエルのもので、少し安堵する。自分一人ではなく誰かがそばに居ること、大切な生徒がどうやら無事であるらしいことにホッとした。

 しかし、動かない方が良いとはいったい?

 他の生徒の声が聞こえない。目を凝らしても完全な闇の中では何も見えない。掴まれた手から伝わる体温がなければ、ノエルの存在さえ信じがたいぐらいだ。

 何かがおかしい。それはコレットでも分かっていた。真夏なのに雪が降ったり、急に空の色が変わったり。森の中で他のチームの声が聞こえなかったのも何か関係があるのだろうか。


「確認なんですが、」

「うん?」

「あの臨時講師をキャンプに呼んだのはコレット先生ですか?」

 ノエルの質問にコレットは首を振る。

「いいえ。リンレイ先生はアーベル先生が声を掛けてくださったの。二人が仲良しだったとは知らなかったけど、私とアーベル先生だけじゃ不安だったし感謝してるわ」

「………そうですか」

「どうかした?」

 何か考え込むような素振りを見せるから、気になってコレットは聞き返す。ノエルはあまり乗り気ではない様子で口を開いた。

「すみません…… 僕が言うべきことではないかもしれませんが、契約切れの講師を学校行事に呼ぶのってどうかと思います。このことはミドルセン校長たちは知らないんですよね?」

「え? そうね、たぶん……」

「……なるほど」

 わけが分からないコレットの隣でノエルは長い溜め息を吐いた。それがアーベルに向けられたものか、それとも違和感を抱かなかったコレットに対するもののか、もしくは頼りない引率者二人に向けてかは分からない。

 問い詰める前に二度目の地響きが鳴り渡り、文字通りコレットは飛び上がった。


「好戦的だな。他の生徒を頼んでも良いですか?」

「頼むって、ちょっと……!」

 何をするつもりなの、と声を掛けてもノエルの耳には届いていないのか、握られていた腕が離される。そのまま小屋から去った小さな背中は、窓ガラス越しにコレットの方を振り返った。

 大きな揺れと共に辺りがまた光に包まれる。
 明るくなった部屋の中で、眠っているように目を閉じるナナやアニアたちの姿を見た。恐怖と不安がつま先から駆け上がる。

「ノエルくん!」

 何かが居る。小屋の外に、何かが。

 弾かれたようにコレットは走り出す。小さな身体で果敢にも挑もうとしている若い教え子を、止めなければいけないと思った。これは彼に対応し切れる問題ではない。状況が把握できるまでは、待機すべきだと。

 暗闇の中で目を凝らす。
 ジャリッと砂を踏む感覚はあった。



「コレット先生」

 ポウッと柔らかな光が灯り、ノエルの顔を照らした。
 まるで直接語り掛けるみたいに声が近くで聞こえる。

「少し視点を変えると、違った世界が見えることがあります。本質から離れた場所に、求めていた答えが転がってる可能性もある」

「待って、ノエルくん……!」

「貴女が僕を本当に子供だと思っていたなら、それは新たな才を見出したことになります。役者になるのも結構骨が折れるものですね」

「え?」

「この身体はちょっと不利なので…… 少しの間、魔力を返してください」

 そう言ってノエルは、呆然と立ち尽くすコレットの前に立つ。暗闇の中で伸びて来た手がピタッと額に触れた。

 何度目かの地響きが森を揺らして、尻餅を突いた瞬間に飛んで来た瓦礫が頬を掠めた。背後でガラスが割れる大きな音がする。

 物音に反応して振り返った先で、コレットは見た。
 反転して綺麗に並んだ六人分の名前。

 一番下に書かれたのは、


「………レ…オン……?」



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