魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第二章 夏の宴と死者の森

42 マゼンタス5

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 シン・リンレイに呼び止められたのは、コレットが女子の大部屋からやっと解放されて浴室へと向かう道中のことだった。

 すでに着替えを済ませた彼は、セレスティアではあまり見掛けない一枚の布切れ状のものを腰のあたりで縛っている。不思議そうに見つめるコレットに気付いて、リンレイが口を開いた。


「珍しいですか?着物と呼ばれる服で、ワコン共和国では一般的なんです」

「そうなんですね……なんだか品があって、」

 色っぽいですね、と続けそうになったところを慌てて止める。これはセクハラというか、感想としてどうなのだろう。あまり変なことを口走るべきではない。

 どうやらもう男子部屋も消灯したらしく、アーベルは教師陣のために宴の準備に入っているらしい。出来れば早めに切り上げたい気持ちで、コレットは胃を摩る。

「心配そうですね」

「え? あ……はい、ちょっと気分が乗らなくて」

「分かります。人との関わりは少々疲れてしまうこともありますよね。人間はアルコールを飲むと楽しくなるようですが、私には分からない」

「ふふっ、リンレイ先生ってば独特な話し方をしますね」

「変でしょうか?」

「いえ。変ではないけど面白いです……ははっ、ごめんなさい、こんなに笑っちゃって、」

 まるで自分はその「人間」ではないような口調で意見を述べるから、コレットはついついツボに入って笑いが止まらない。

 笑い転げるコレットを眺めるリンレイの目を見て、コレットは思わず「あ!」と溢した。

「リンレイ先生、瞳が赤いんですね!綺麗です」

「好きですか?」

「え?」

 聞き返した瞬間、ドクッと心臓が高鳴った。

 自分の意思で身体を動かすことが出来ない。
 まるで金縛りにあったように、真っ赤な双眼から視線が外せない。周囲の音が耳に入らないのはどうしてだろう。一日の疲れで、頭がおかしくなったのだろうか。

 つま先から痺れが走って、コレットは床の上に膝を突いた。そのまま尻までぺたりと倒れ込み、二本の腕でなんとか上体を支える。

「す……すみません、疲れが出たのかも、」

「大丈夫ですよ。みんな同じです」

「みんな……?」

「辛そうですね、手を貸しましょう」

 呼吸が上手くできない。細い息を繰り返すコレットの隣にリンレイが屈んで、その手が背中に触れた時、バチッと大きな音が鳴った。

 驚いて顔を上げた先に、コレットは教え子の姿を見た。


「コレット先生、どうかしましたか?」

「ノエルくん!」

 こんな格好を見せてはいけない、と両手に力を入れて立ち上がる。さっきまで鉛のように重かった身体がどういうわけかスッと動いた。

「あ、えっと……情けないところを晒しちゃったわね。ちょっとバスの移動で疲れちゃったみたいで、よろけただけ。リンレイ先生も、ご心配をお掛けしてすみません!」

「………いいえ」

 リンレイは返答しながらも、その目をノエルの方へと向けていた。コレットから表情までは見えないが、呆れさせたのではと心配になる。しかし、この調子ではアーベルの飲み会に付き合う余裕は無さそうだ。合宿一日目で痴態を晒すわけにはいかない。

「ごめんなさい、アーベル先生のお誘いはお断りすることにします。体調が優れないと伝えて来ますね」

「そうですか」

 歩き出すコレットにパタパタと近付く足音があった。振り返れば、追い付いたノエルが隣に並ぶ。


「アーベル先生には僕も聞きたいことがあるのでご一緒させてください」

「あら、良いわよ。貴方が熱心になるなんて先生も嬉しいわ~」

 ニヒヒッと笑顔を見せてみたものの、ノエルはただ真っ直ぐに前だけを見据えていた。

 あまり乗り物酔いするタイプではないと思っていたけれど、これも死に戻りの弊害なのだろうか。嘔吐までは至らなかったから良かったものの、帰りのバスが今から少し怖い。

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