魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

第二章 夏の宴と死者の森

40 マゼンタス3

　生徒たちは皆移動で疲れ果てたのか、やや眠そうな顔で各々好きな場所でくつろいでいる。夕食はすでにアーベルが手配済みということで、あと少しで近くのレストランから人数分の弁当が到着するらしい。

　さすが極地と言うべきか、王都ではあんなに夏を感じていたのに、ここマゼンタスでは半袖一枚だとくしゃみをしてしまう程だ。事前に生徒たちには服装について告知していたものの、ここまでの差があるとは皆思っていなかった様子。

（懐かしいわ、この感覚……）

　鼻の奥がツンとする感じ。冷え込んだ空気は、肌にまとわりつく夏の灼熱とは真反対で、突き放すようだ。体調を崩す人が居ないと良いけれど。

　心配していた部屋については、一応男女で階数が分かれているらしく、男子生徒の集う大部屋は一階に、女子生徒の大部屋は二階に配置されていた。有難いことに教師三人は個人の部屋が割り振られていたので、夜の見回りが済んだら幾分かリラックスすることが出来るだろう。


「それにしても、驚きました！」

　コレットは隣に佇むリンレイに話し掛ける。

「アーベル先生の言っていた助っ人はリンレイ先生のことだったんですね。お楽しみ、なんて言ってぜんぜん教えてくれなくって」

「それはすみません。アーベル先生から個人的にお誘いの声があって、良いチャンスだと思ったんです」

「チャンス？」

「はい。まだ私はプリンシパルでやり残りたことがありましたから。こうして生徒たちと再会出来て嬉しい限りです。一週間、よろしくお願いします」

　差し出された手を「こちらこそ」と握り返す。
　リンレイと握手を交わした際に、ピリッと静電気が走った気がした。コレットは自分の手のひらに視線を落としてしげしげと見つめてみる。

「クライン先生もアーベル先生から夜の宴に誘われましたか？」

「え？　あ……あぁ、まぁ」

「僕はあまりお酒が強い方では無いんです。判断力が鈍ってしまうし、特に祖国のお酒は僕には強すぎて」

「そういえば、リンレイ先生は外国のご出身でしたね。どちらからいらっしゃたのですか？」

「東のワコン共和国です。セレスティアはやはりマーリンの産みの国ですから、高度な魔法を学ぶにはうってつけの場所だと思います」

　彼の出身である東の異国については、あまり聞いたことがないものの、物腰の穏やかなリンレイの生まれ育った国ということで、きっと良い場所なのだろうと勝手に印象付ける。

　その時ちょうど呼び鈴を鳴らす音がして、外を覗くと大きな箱を抱えた料理人らしき男が見えたので、コレットは慌てて玄関へと向かった。

　人数分の食事を受け取ってアーベルから預かっていたお金を支払う。木箱には大量のお弁当が並べられており、出来立ての料理はまだ温かそうだ。


「みなさーん！お弁当が届きましたよー！」

　ダラけていた生徒たちの目が一気に輝く。
　猪の如く駆けてくる若い塊に押されて笑いながら、今回のサマーキャンプが楽しくなるような予感を少しだけ感じていた。