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第一章 魔法学校のポンコツ先生
24 良い変化
しおりを挟む意外なことに、翌日の帰りの会が終わる頃にはコレットの手元には四枚の申込書が集まっていた。それらはバロン、ミナ、アストロ、ノエルのもので、バロンやミナはともかくアストロとノエルに関しては参加などあり得ないと思っていたから驚いた。
しっかりとサインが書かれていることを確認してコレットは安堵の息を漏らす。提出の際にアストロが言っていた「誰も参加しなかったら先生が可哀想だからな!」という言葉が彼の本意なのかは分からないけれど、やはり何かが良い方向に向かっている気がする。
(頑張らなくっちゃね……!)
ぎゅっと拳を握り込んでいたところ、背後から小さな声で名前を呼ばれた。
「あの……コレット先生っ!」
振り返ってみると、女の子が立っている。
それは一年一組のアニア・トランベルだった。
アニアはミナやバロンのような押せ押せの生徒ではないものの、いつもコレットの話を大人しく聞いてくれる良い生徒だ。ノエルの隣の席でもある彼女はよく窓の外を眺めてぼーっとするノエルのことを心配そうに見ている。
「うん、どうしたのアニアさん?」
今朝方生徒たちに名前呼びの許可を取ったので早速呼んでみたところ、アニアはポッと顔を赤らめる。怖がらせないためにコレットは腰を屈めた。
「えっと、えっと……帰りの会の後で、みんながサマーキャンプの申し込みをしてるのを見て……私も……」
そう言いながら四角い紙が差し出される。
丸く可愛い文字でアニアの名前が記されていた。
「まぁ!嬉しいわ、参加者は大歓迎!」
「あの、私まだお友達が少なくて、このキャンプでみんなと仲良くなれたらなって……!」
「大丈夫。先生もお手伝いするわね!」
「ありがとう……コレット先生!」
アニアは丸い顔にパァッと笑顔を浮かべる。
この人の良さそうな笑顔。薄らとコレットの脳裏に過去の記憶が蘇る。男爵令嬢アニア・トランベル、一度目の人生でも彼女はコレットのクラスに居た。引っ込みがちな性格とすぐに赤くなってしまう顔のせいで、クラスの強気な生徒たちとの間に距離が生まれていたことを覚えている。
二度目の人生で分かったことがある。
コレットの一度目の人生での反省点、それは自分の理想を優先してしまったこと。「良い先生」「良いクラス」であることに固執するあまり、それぞれの生徒の特徴を捉えて寄り添う指導が出来なかった。上手くいかない原因を突き止めようとしなかった。仕方がない、とすぐに諦めて。
だけど、今ならまだ間に合う。
アニアの願いを叶えてあげたい。
「アニアさんはどんなごはんが好き?キャンプで作る料理のこと、アーベル先生と話し合ってるから参考にさせてちょうだい」
「うーんと……私は食べ物ならなんでも好きです。でも、えっと、うちの料理長が作るカレーはとっても美味しいんです」
「良いわね~!レシピを教えてもらえたら再現出来るかしら?また聞いておいてくれると嬉しいわ」
「分かりました……!」
明るい笑顔を見てコレットも微笑む。
きっと、一度目よりは良くなっている。
これから先だって変えていくことは出来るはず。
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